01ch グルメ食べ歩き
御茶ノ水小川軒
(東京都 文京区)

店名 御茶ノ水 小川軒(おちゃのみず おがわけん)
住所等 東京都文京区湯島1-9-3 【地図表示】
禁煙 タバコ分煙(B1は13時まで禁煙)
訪問日 2006年6月中旬 ハヤシライス 1890円 
           オックステールシチュー 4725円 




〜お茶の水小川軒 その1〜



2006年6月中旬 ハヤシライス 1890円 

今回は、都内でも屈指の「美味しい洋食店」との呼び声が高い、巷で評判の「御茶の水 小川軒」(文京区・御茶ノ水駅)さんを訪問してみました。
小川軒の創業は明治38年、既に親子三代、100年に及ぶ歴史を持つそうです。実際、インターネット上の「洋食系サイト」「グルメ系サイト」などを見る限り、こちらのお店を「絶賛」する記述が多数見受けられます。
しかも、その表現は「この店を食べずして洋食は語れない」「突出した味のレベル」などの最上クラスの賛辞が惜しげもなく贈られているお店なのです。

この日は、小川軒の人気メニューである「ハヤシライス」を食べるために二名で訪問してみたのですが、予想を遥かに上回る「神がかり」の美味しさに、急遽、「オックステールシチュー」も頂くことになりました。




JRもしくは東京メトロの「お茶の水駅」から徒歩3分ほどです。
新御茶ノ水駅、末広町駅、秋葉原駅、湯島駅、本郷三丁目駅なども徒歩5〜8分ほど。
この界隈には、神田明神、聖橋、湯島聖堂、ニコライ堂などの名所が多いですね。





赤いヒサシが目印です。住所は神田川を渡るため、千代田区ではなく文京区になります。
ちなみに小川軒は、「お茶ノ水店」以外に、「代官山 小川軒」や「新橋 小川軒」など、数店舗のお店があるようです。





店頭に置かれたメニューです。1階と地階では、メニューが異なります。
「1階」はカレーとハヤシライスが気軽に味わえるカフェレストラン、「地階」はコース料理もある本格派レストラン・・・・と言う感じでしょうか。




地下への階段を降りると、小さな看板が出迎えてくれます。
ちなみに、この日は11時半の開店と同時に入店しました。




地階のドアを開けると広がる風景です。
ブラインド代わりのハンガー懸けがあります。




左手に四人掛けテーブル席、
その先が厨房スペースになっています。




右手にはソファ席が広がります。奥にはワインセラーが見えます。
開店直後でしたので、席は空いていましたが、こちらの一帯にはグループの予約が入っていたようです。
すぐに多くの来客があり、結果として店内は12時頃には満席となりました。

インテリアの設え(しつらえ)や調度品は高級感満点ですが、実際にはご近所の顔馴染みや趣味仲間などが訪れ、ワイワイと話に花を咲かせ、意外に気取りのない雰囲気です。
ホールスタッフの方もテキパキとしてフレンドリーです。どこぞのフレンチレストランのような、お高く気取って「かしこまった」ような感じではないです。




卓上に置かれたメニューです。
「チョップドビーフ」、「ハヤシライス」、「カニクリームコロッケ」、「車海老のフライ・タルタルソース添え」など、お得なセットメニューが四種類、サラダ、コーヒー付です。

いくつかの一品料理の他、コースメニューも(A)(B)の二つがあります。
私も、同行者も、「ハヤシライス」を注文しました。
しかし、その驚愕の美味しさに驚き・・・・その後に「オックステールシチュー」も追加することに・・・・。




ミラー越しに横へ長く広がる窓を通して、厨房内のスタッフの調理振りを見ることができるようになっています。
なかなか心憎い演出です。

さて、私達の隣り席に一組の先客がいたのですが、その隣の席へ「チョップドビーフ」(特製ハンバーグ)セットが運ばれて来ました。
私達の席まですぐにその芳香、その匂いが漂って来たのですが・・・・その焼けた肉と玉ネギの匂い、そして何より驚くべきデミグラスソースの「超芳醇」な匂いの凄さに、驚きを隠せませんでした。
「味」と「匂い」は表裏一体、料理の美味しさは「匂い」でほぼ予見できます。このにわかには信じ難い媚薬のような匂いを嗅いで、これはハヤシライスも、「超期待できる」と確信しました。





まずはセットの「サラダ」が登場しました。
ちなみに、一般に美味しいサラダの条件とは「3Cを備えたもの」と言われているようです。

「3C」とは、つまり「Clean」(清浄)、「Crisp」(パリパリ新鮮)、「Cool」(ひんやり冷たい)と言うことです。
こちらのサラダは野菜の鮮度や味などは非常に良いものですが、最初の二つは見事にクリアしているものの、混雑するランチタイム用にある程度は作り置きしてあったのかどうか・・・温度はほぼ「室温」に近い状態でした。

また、ドレッシングはやや酸味が強すぎてしまい、好み次第とは思いますが、私的には味が少々きつく感じられました。





さて、いよいよお楽しみ、「ハヤシライス」の登場です。
驚くほど大きな楕円形のお皿にはライス、ココットのようなソース皿にハヤシソースが入れられて登場しました。
ソース皿の左側にはソースレードルを立てかけられるよう、「受け」が付いています。

薬味として可愛い「ピクルス」が付いてきました。
ハヤシライス登場前にうっかりサラダを食べ終わってしまったため、サラダなしでの撮影です。





ハヤシソースのアップです。
うーん・・・・デミグラスソースがたっぷりと使われているようで、とても色合いが濃いですね。
いざ目の前に置かれると、その眼前に匂い立つ芳醇な香りの吸引力に、本当に吸い込まれるかのような錯覚に陥ります。
私の目は吸い込まれるかのごとく一心に器を凝視し、すべての思考はハヤシルーに占領され、すっかり臨戦態勢になってしまいます。

ちなみに、こちらのお店では、「洋食の命」であるデミグラスソースは、牛スジ肉と香味野菜から10日間かけて仕込んでいるそうです。
具は、「ビーフの厚切り肉」、「タマネギ」、「シャンピニオン」(西洋マッシュルーム)です。
上の写真で赤く「ニンジン」のように見えるのは「シャンピニオン」です。

さて、まずはライスへかけずに、ビターチョコレートの色をしたハヤシソースだけを、
スプーンですくって、一口なめてみました・・・・・。

ペロッ・・・・・ペロリ・・・・・・・。



う、ぅ、うぅ・・・・。

こ、こ、これが・・・・洋食業界にその名を轟かす、「小川軒」のハヤシソース・・・・・。


いやはや、恐ろしいまでに・・・・・凄まじいまでに・・・・・究極的に「気品」のある味わいです。
「気品」「気品」「気品」「気品」「気品」「気品」・・・・・何と言う「気品」なのでしょう。

単純に美味しいと言うのではなく、「庶民の世界」には存在しない味、まるで「貴族の世界」を連想させる味です。
「デリシャス」ではなく、「ラグジュアリー」&「ノーブル」なテイストと言う印象ですね。

風味は分厚く、滋味深く、芳醇であり、いわゆる「濃醇」なドミグラスソースそのものの味わいに近い感じですが・・・・何より同時に、素晴らしく「洗練」されている都会的で「瀟洒」(しょうしゃ)な味わいです。
加えて言えば、「優雅」で、「育ちの良い」「やんごとなき」「高貴」な味わいです。

しかも、その味わいは非常に明瞭で判り易く、決して「高尚」過ぎないところが・・・・いかにも「洋食」らしいです。
つまり、決して「判る人だけに判る」と言う玄人志向の味ではなく、きちんと階段を最下段まで降りて来てくれて、誰にでもその「凄さ」「違い」が際立って判る・・・・美味だと思います。





二口目からはライスと一緒に食べてみます。
ハヤシソースを一気にライスへかけてしまうと、冷めやすいですので、何度かに分けてソースをかけて食べました。
ライスにかけても、ソースが全く「透けない」ですね・・・・うーん、これは相当に濃厚なハヤシソースのようです。

ビーフの濃厚な旨味、炒められた苦味と、トマトのような明るい酸味が感じられました。同時に圧倒的なフォンの「香気」と「旨味」が口中と鼻腔いっぱいにあふれ返ります。
やはりハヤシソースとライスを一緒に食べてみると、ライスの淡白で無垢な味わいが、適度にソースの濃密さを溶きほぐし、引き延ばしてくれることで、より一層はっきりと、ソースの「輪郭」が、その「正体」が、その「全容」が・・・・・判り始めて来ます。
凝縮していた旨味が一気に「花開く」感じです。と、同時にあまりにも「美味すぎる」と思わされます。普段よく口にする類のハヤシライスとはまさに別世界の味です。

牛肉は噛み応えがありますが、硬いと言うのではなく、「ふっくらして豊か」な量感のある噛み応えと言う印象です。滑らかで、柔らかなのですが・・・・元は「締まった良い肉」をしっかりと煮込んで上手に柔らかくした・・・・と言う感じでしょうか。
ううむ・・・・表現に困るほどの美味しさです。

ただ、たまたまなのか、思っていたほど牛肉や具の姿は多く見えないですが、しかし、具が少ないのではなく、具はすっかりルーの中へ溶け込んでいると言うイメージなのです。もの凄い量の素材を感じさせられる「超濃縮」された味です。しかし、同時にとても上品な味わいです。
どうやら、あまり油脂類を使っていないようで、旨味は素晴らしく濃厚ですが、意外と口当たりは軽めで柔らかです。そしてフレッシュさのあるトマトの風味が良く生きています。

トマトの酸味が「鮮やか」に効いていて、やや強めかなとも感じられますが、恐らくお店としての狙いがあるのでしょう。
玉ネギはあまり煮込まれておらず、トロける柔らかさではなく、歯切れの音が「ジャリジャリ」と鳴る位の「タマネギ原形」の食味を残している味わいです。
シャンピニオン(西洋マッシュルーム)の舌触りがとても滑らかです。


ちなみに、一つ気付いたことは、とても気品のある味なのですが、同時にハヤシライスの「原点」を忠実に守っている、非常に「クラッシック・スタイル」「どこか懐かしいハヤシテイスト」だと感じます。
その理由は「トマト」の旨味と酸味がきっちりと効いているからです。「牛」や「香味野菜」の持っている味と魅力を余さず、凝縮させて、すべて伝えて来るイメージですが、中でもトマトの美味しさが頭一つ抜け出ている感じがあり、全体の指揮者の様相です。
実は、私にとっては、子供の頃に食べたハヤシライスの第一印象は何よりこの「トマトの味」だったのです。記憶の原風景をくすぐる味です。
昔から食べて来た「ハヤシライス群」のいよいよ「親玉」「集大成」のご登場と言う感じです。伝統&正統派の味です。





ピクルスは酸味がきっちりと効いていますが、トゲトゲしい感じはなく、あくまで「ほんのり」とした優しいです。
酢で漬けられていながら、野菜らしいフレッシュさが残っています。柔らかな酢の酸味が、ほど良い口直しの役目を果たしてくれます。





見ての通り牛肉はかなり「厚め」に切られていて、柔らかさ&歯応えと言う相反しがちな要素を見事に両立させています。
そしてブヨブヨする脂身がほとんどないのは私的にとても高ポイントです。いずれの牛肉も「ふっくら」「さっくり」と歯切れが良く、口当たりに高級感があります。
よくハヤシライスと言うと、ブヨブヨの脂身だらけの安いビーフのバラ肉や、ゴリゴリするスジの多い肉を使ったような粗悪なイメージがありますが、それらとはまさに「正反対」で、相当に高品質な牛肉を使っています。

そして、食べていて気付いたのは、スプーン一杯の味の中に、本当に「七色」の「様々な」味わいが息づいていると言うことです。
ルーを口に入れて舌の上に置き、そのまま60秒位「じーっ・・・・」としていると、様々な味が次々に舌の上に姿を現して来ます。数秒ごとに様々な異なった素材の味が次々と「交代」で顔を出し、リレーのバトンタッチのように・・・・次々と顔を出しては消えてゆきます。「味の種類」が異様に「豊富」なのです。
実に「豊かな味」、様々な味わいが現れては隠れ、隠れては現れる・・・・潤沢な素材群からあふれ出す世紀の美味の名競演・・・・果たして一体、どれだけの種類の旨味がこのルーの中には潜んでいるのか、計り知れない気持ちになって来ます。

例えるなら、このイメージは・・・・・名門フルオーケストラが奏でる名曲の「旋律」、癒される音楽の「調べ」のようです。
ソースを口に含めば、それぞれの素材が、それぞれのパートを演じ始め、それらの「音」が次第に見事に「調和」してゆき、一つの「名曲」となる・・・・心に響く「旋律」になる・・・・。
余計なもの、欠落しているものが何一つない超一流のフルオーケストラの演奏会のごとき、まさに「感無量」の味わい。

そして、ソースを飲み込むとともに、次第にそれらの美しい旋律もまた見事に収束してゆく・・・・類まれなる美味しさの深い余韻だけを残して・・・・。
まさに小川軒のコックさんは、個性的な多数の素材の持つ旨味を見事に引き出し、高尚にまとめ上げる、名指揮者の様相です。

しかも、このうっとりとしてしまう美しい「味のメロディライン」・・・・めくるめく旋律の美しさで聴く者すべてを桃源郷へと誘う、この「美しい調べ」は・・・・・まさに、「天才」と呼ばれた「モーツァルト」の旋律でしょう。
こちらのハヤシソースには、モーツァルトの不滅の名曲を聴くが如き「味」のメロディが奏でられ・・・・わずかスプーン一杯のソースの中に、「官能」があり、「魅惑」があり、「陶酔」がある味です。
モーツァルトの名曲同様に、食べた(聴いた)人を「生かす」、「鼓舞する」、「元気にしてくれる」、「幸福感で包んでくれる」・・・・味です。

「小川軒」の目指すもの、そのテーマは、間違いなく「洋食」という料理の高尚さ、その真の「味覚感銘」にどこまで近づけるか・・・・でしょう。



(すべて完食)




↓続きあり






〜お茶の水小川軒 その2〜




同上日 オックステールシチュー(牛尾の赤ワイン煮込み) 4725円 

ハヤシライスが凄まじく美味しいので、急遽、こちらの「看板メニュー」の一つ、「オックステールシチュー」も食べてみる事にしました。
ホールスタッフの方によれば、「少々お時間を頂きます」とのことでした。
ライスかパンが選択できるのですが、シチューは、そのソースをパンですくって食べる事が一つの作法にもなっていますので、パンを選択しました。




さて、注文してから約20分ほどで「オックステールシチュー」が登場しました。
こちらは先の「ハヤシライス」と並んで、小川軒創業当時から続く「看板メニュー」だそうです。

付け合わせとして、温野菜三種の盛り合わせが付きます。
なお、こちらのメニューにも最初にミニサラダが付きますが、ハヤシライスに付いた物と同一でしたので写真は省略しました。

そ・し・て・・・・なんと、
オックステールを乗せるためのお皿は「ロイヤル・コペンハーゲン」なのですね。

デンマークの誇る名窯「ロイヤルコペンーゲン」の中でも200年以上もの歴史を持つ一番人気の「ブルーフルーテッド・シリーズ」、そのハーフレースの深皿で登場です。
おそらく定価で買えば一枚で楽に2万円以上はするお皿です。

実は私も趣味でウェッジウッド、マイセン、リチャードジノリ、ロイヤルクラウンダービーなど、洋食器やカップ類をコレクションしているのですが、その中でもロイヤルコペンハーゲンが最も好きで、一番多く所有しています。
しかし、傷が付くのを避けるためほとんど食器棚で飾っているだけなのですが、この高価なプレートがナイフやフォークでキズが付く事を恐れず、日常の「実用」に供するとは・・・・。
「小川軒」の心意気に心から敬服してしまいます。





お皿は中段付近から段差が付いていて、中央の一帯が一段深くなっています。
こういうシチュー物に専用に作られたディープタイプのプレートです。

鼻を近づけてみますと、先のハヤシライス同様に、素晴らしく「力のある良い匂い」が漲っています。
オックステールは、つまり牛の「尻尾」ですので、根元の方が太く、先へ行くほど細くなります。実際にテールシチューに使われるのは、根元から半分程度までで、先の方の細い部分はダシ用として使うようです。

また、他の「サーロイン」や「フィレ」などの部位と違って、テールには独特な「臭み」があり、下処理の段階でその臭みを取るのが最も手間がかかるそうです。
素人には、まず「手に負えない」、非常に難易度の高い素材と言えるでしょう。





テールは二片載せられてきました。
左側のテールはやや太く、上を向いた縦置きの状態、右側のテールは横になった状態で置かれています。

上に「クレソン」が載せられていました。
クレソンは「水辛子」(みずがらし)とも呼ばれ、その爽やかな芳香と、「ピリッ」と来るほど良い辛味が牛肉料理にはとても良くマッチします。
鮮やかな緑色が、彩りとしてもとても良いですね。

さて、まずはこの見た目からして「旨味の異次元凝縮体」のような濃密な色合いの「ルー」だけを、スプーンですくって舐めてみました・・・・。

ペロッ・・・・・ペロリ・・・・・・・。



う、ぅ、うぅ・・・・。

こ、こ、これが・・・・洋食業界にその名を轟かす、「小川軒」のデミグラスソース・・・・・。


いやはや、これまたハヤシライス同様に、恐ろしいほどに・・・・・究極的に「ノーブル」なる味わいです。
「高貴」「高貴」「高貴」「高貴」「高貴」「高貴」・・・・・何と言う「気高い味わい」なのでしょうか・・・・・。

洋食技術の「粋」を結集したようなデミグラスソースは、非常に高度な調理技術と素材密度が濃厚に渦巻く、まさに「唯一無二」の超ヘヴィな「濃縮&凝縮」テイストです。

ただ、口に含んだ瞬間は、あまりに濃密過ぎてやや舌が味を判りにくいように感じられました。混雑したスペースで、大勢の人(味)に一斉に語りかけられて、同時にはうまく聞き取れないイメージです。
あまりにも「色々な味」「様々な素材感」が有りすぎて、多すぎて・・・・どんな物が入っているのかとか、何が使われているとか・・・・良く判らず、ただただ恐ろしく「ラグジュアリー&ノーブル」と言う感覚しか判らない印象です。
ただ、先のハヤシソースに比較すると、ソース自体は、トマトの存在感とその酸味が隠れており、代わりに芳醇なマデラワインのような・・・・独特の赤ワインの風味が感じられます。





いよいよ「テール肉」に取り掛かります。
フォークとナイフで軽くつっついただけで「ホッコリ・・・」と、簡単に身が骨から外れました。
センターの尾骨の周囲を、グルリと肉の帯が取り囲んでいる感じです。

はがれた尾の身の内側を見ると、とても複雑に入り組んでいます。
良く「動物」も「魚」も、最も美味しい部分は、骨に密着している肉だと言われます。そう言う意味では、この「テール」、すべての肉が骨に密着していると言えます。


さて、ほぐした身を、いよいよソースにからめて食べてみます。

ハフハフ・・・・・ホグホグ・・・・・・。



う、ぅう、うぅ・・・・。

こ、こ、これが・・・・小川軒が誇る看板メニューの「オックス・テール」・・・・。


いやはや・・・・舌も、身も、心までもが・・・・トロトロに「蕩けそう」(とろけそう)な素晴らしい美味しさです。
まさしく「至福」「歓喜」の瞬間です。何と言う・・・・「気高く」「優雅」な味なのでしょう。

過去に、比類のない、一切の「穢れ」(けがれ)や「俗っぽさ」のない、「スーパー・ノーブル・テイスト」です。
うーん・・・・ここまで来ると・・・・既に、到底、「庶民」や「大衆」の食べ物のレベルではないですね。

やはり、ソースだけだと、あまりにも旨味が濃密なのですが、一緒にテール肉を食べることで、ソースと肉がほど良く交じり合い、適度に溶き延ばされて、まさしく「理想」の濃度が現出するイメージです。

このテールシチューを、一口、舌に乗せる行為は、やはり、先のハヤシライス同様に、名門フルオーケストラ演奏会場の大きな扉を開き、会場へ足を踏み入れるがごとき体験ですね。
ドアをくぐれば、一斉に降り注ぐ・・・・・ありとあらゆる楽器の極上の名演奏を、特等席で全身にあびるかのような・・・・・広がり、厚み、奥行き、深み、力強さ、鮮度感、一体感、調和感・・・・・。

様々な「音色」(旨味)が順番に姿を現しては消え、消えては現れ、現れては消えてゆく・・・・決してバラバラにならず、かといって決して団子状にもならず、自身の音色をしっかりと奏で主張しながらも、美しいメロディラインに乗って、他の音色と調和してゆきます。
つまり、「時間軸」と言う概念の存在する味です。本当に「楽譜」を読んでいるようであり、一つの「曲」になっています。そこには、無駄な音も、欠落している音も、一つとして存在していません。
それだけ、ソースとなった後も、一つ一つの素材がきちんと生きていると言うことなのでしょう。

そして、その「曲」は、決して「ポップス」や「ロック」ではなく、間違いなく、時代を超えて愛され続ける「クラッシック」の気高い名曲の世界です。
電気的増幅装置であるアンプや安易なエフェクターを一切使わない、楽器本来の響きを奏でるアコースティックの自然で美しい「音色」の結集した世界です。





こちらは、もう一つのやや大きい方のテールを、ほぐしてみたところです。
軽く触れるだけで、ハラリ、ホロリ、とほぐれますので、盛り付けが大変に難しいことでしょう。


さて、いよいよ本格的に「テール肉」を食べ始めますと、牛肉の中でも高級食材とされる「テール」ならではの、数々の特徴に気付きます。

その食味は・・・・・本当に様々な食味が同居していて、1cm場所が違うと、もうまるで異なる食感に変化します。
敢えて分類しますと・・・・大きく、3タイプほどに分かれるようです。

(1)「良く煮込まれた赤身の筋繊維」・・・・「ホクホク」「ホグホグ」とするテールの主役。
(2)「とろける柔らかな脂身」・・・・・「トロトロ」「トローリ」とする滑らかな脂肪分。
(3)「強い粘り気のあるゼラチン」・・・・・「ネトネト」「ムチョムチョ」とする濃密なゼラチン質。


これらの食味の異なる部位が、複雑に入り組み、牛肉にありがちな大味さが全くなく、食べていて色々な食味がまるで「パズル」のように組み合わさっているような・・・・面白さがあります。

特に骨の近くには、「ムチムチ」「モチモチ」「トロトロ」「ネトネト」とするゼラチン質が多く存在し、独特な舌触り、歯応え、口当たり・・・・です。
一口にゼラチンと言っても、どこにでもあるようなレベルのものではなく、これほど濃厚に「ネトネト」「ムチョムチョ」として強く「粘り付く」、グイグイと「からみ付く」感じは・・・・常に休みなく360度方向に動かし回し続けている「尾」の身だからこそなのでしょう。
他の部位のゼラチンではこの「濃密さ」「深さ」は決して味わえないと思います。「テール」「牛尾」ならではの、「唯一無二」と確信できる実に非凡で濃密なゼラチンの「質感」です。

そして、実は、この非凡なゼラチン質が、テールの筋肉の部位に、まさしく「霜降り」状に混じり込んでいて、そのためテール全体が「モッチリ・・・・」とした粘り気と重みのある独特な肉の味になっています。
この「モッチリ・・・・」とした粘り付くようなゼラチン肉が、絶品ソースをたっぷりとからませながら、舌を覆い、包み込むと・・・・これはもう、「筆舌に尽くせない」「悶絶レベル」の美味しさが現出します。

世の中、「脂肪」が霜降りで入っている牛肉は珍しくもないですが・・・・・・。
こう言う「ゼラチン質」が霜降りで入り混じっている部位は、大きな牛の体とはいえ、おそらくこの「テール」の部位だけでしょう。それゆえ「牛の尾」は「珍重」されるのでしょう。
他に、ゼラチンが霜降りで入り混じっている肉と言えば・・・・・中華の超高級食材である「熊の手」などが思い浮かびます。

この絶品食味を、もし何かに例えるとしたらですが・・・・・肉の繊維感がある部位は、「ソフトさきいか」をグーンと高級にしたような食感です。
トローンとする脂肪やネットリとするゼラチン質の中に、ソフトサキイカを彷彿とさせる「筋肉の繊維」がほど良く混じり込み、この「トロトロ感」と「繊維感」の織り成すコントラストが絶妙なのです。
そして、舌に残る硬いスジや、しつこくブヨブヨするような脂身がなく、いずれの部位を食べても、数口噛むだけで、舌の上でトロけてゆく美味しさです。


私は、他店でオックステールシチューは何回か食べた事がありますが、こちらのお店はデミグラスソースが最高なのはもちろんですが、オックステールそのものも、ズバ抜けて良い品を使っていますね。
大抵は、単に柔らかいだけのテールが多く、ここまで身肉にきちんとした繊維感と旨味が詰まり、かつ、パート毎の食味の違いが楽しめるテールは初めてです。





付け合せの「温野菜サラダ」です。
右側の四角いものは茹でたポテトです。意外に塩が効いた味です。
真ん中のものは南フランスの代表的な野菜料理「ラタトゥィユ」でしょう。ズッキーニはとても柔らかく煮込まれ、トマトの酸味が効いています。
左側のいんげん豆は「素朴」な味わいがとても優しいです。柔らかくて「豆」の美味しさがしっかりと滲み出て来ます。小間切れのベーコンがまぶしてあります。





パンは二つありましたが、小さな方は外側は「カリカリ」として、中は「モッチリ・・・」としていて非常に美味しいです。
大きな輪切りされた方はやや「ガリガリッ」と乾燥した感じで硬めの食感でした。

そして、二つとも何より思いっ切り「小麦」の味が「全開」です。卵やミルクの味がほとんど感じられず、何重にも、何重にも、何重にも、「小麦」「小麦」「小麦」「小麦」「小麦」「小麦」・・・・・。
噛むたびに、エンドレスに「小麦」のピュア&ナチュラルな味が湧き立ちます。まさに「麦の味」が凝縮し切っていますね。





シチューを食べ終わると牛の骨だけが残りました。ブロイラーチキンの骨などと違い、非常に硬く、食用は不可能です。
そして・・・・・牛の尾骨は非常に複雑な興味深い形状をしています。
最後はパンが冷えて硬くなってしまい、あまりソースをきれいに拭えませんでした。

ちなみに、骨からは「ポロリ」と、とても簡単に身が離れます。
骨はとても硬い上にかなり複雑な形状をしていますので、口に入れてから小片が「ガリッ」とすることがないよう、慎重にナイフとフォークで選り分けてから食べた方が良いでしょう。


いやはや・・・・こちらのオックステールシチューを頂いてしまうと、他のすべての洋食が霞んでしまいます。
テールシチューに比較すると、普通のビーフシチューは「大味」と言うか、変化に乏しい、単調な味わいに感じられてしまいます。





食後のコーヒーとプチフールです。
このコーヒーは「ハヤシライス」のセットで付いて来たものです。
最後に回して頂きました。

ハヤシライス、オックステールシチュー・・・・と大満足の美味が続き、「ホッ・・・・」と安堵したのもつかの間、こ、こ、このコーヒーがまた、とんでもない美味しさです。
ちょっと量が少なめで、やや苦味が強めのブレンドなのですが、雑味がまったく出ておらず、口当たりに透明感があり、後口にキレがあります。
お湯の温度があまり高すぎず、抽出時間も短めで、長時間お湯にさらさないからだと思います。コーヒー豆の「負の部分」を一切出さず、「美味さ」だけを純粋に抽出していますね。
ともかく「焙煎し立て」「挽き立て」「淹れ立て」の三拍子が揃っていないと絶対にこういう風味は出ないでしょう。

コーヒー専門店でも、ここまでの味を出しているお店は、滅多にお目にかかりませんね。
これだけしっかりと味が乗ると言うことは一杯あたりに使っている豆の量も多めなのだと思います。
過去、コーヒーは「ブルーマウンテンNo1」をストレートで飲むのが最高と思ってきましたが、こちらのブレンド、まさに「ブルマン」に勝るとも劣らない「比肩」する味です。
しかも淹れ方が完璧なのでしょう。コーヒーの風味が、ベッタリとした黒一色のダンゴ状ではなく、さまざまな風味がきちんと解像するように伝わって来るのには驚きました。
これまた、先の「ハヤシライス」や「オックステール」と同じです。

さらにさらに・・・・・プチフールですが、これもまた、信じ難い「絶品の美味しさ」なのですから・・・・恐れ入ります。
上のものは、砕いたアーモンドスライスが散らされジャムがほんのりと甘く、上品な洋菓子と言う感じですが、下の「サブレ」は、何と言うか・・・・サクサクとした絶妙な口解け感が最高の美味しさです。
「サブレ」とは、フランス語で「砂」という意味らしく、口中で「サラサラサラ・・・」と砂粒のように崩れていく様子からそのように呼ばれているそうですが、まさにその語源を実感させてくれるサクサクとした素晴らしい食感です。

しかも、一口食べれば、「使っているバターが全然違う」とはっきり判る美味しさです。
玉子の風味とバターの芳ばしさ、香りの良さ、ふくよかさ、後口の「こなれ感」が素晴らしいです。決して「ベタッ」とせず、砕けたサブレの粉が、まるで「清流」のようにサラサラサラ・・・・と鮮やかに流麗に口の中を流れ、同時に上品な甘味が迸る(ほとばしる)様子に驚嘆してしまいます
この食味・・・・・昔良く食べた「タマゴボーロ」と言うお菓子を超高級にリメイクした感じが近いですね。あのお菓子は小麦粉ではなくて「ジャガイモのでん粉」ですが、口中で自然に砕けてサラサラする食感とタマゴの風味が似ています。




さて、食べ終えての感想ですが・・・・・・

一言で言えば・・・・・はっきりと「格が違う」味です。

まさに「非現実の美味レベルを日常のものとして」見事に具現しています。
あまりにも、一般水準から大きく飛び抜けている味、抜きん出ている味。二品とも、到底、一時間や二時間では表現できない、語り尽くせない味です。

唯一つ、言える事は・・・・この味は、下から持ち上がって来た、成り上がって来た味ではなく・・・・明らかに、「上の世界」から「降りて来た味」ですね。
「世が世なら・・・・遥か雲の上の存在であった王族、皇族、貴族の世界の味が、いよいよ庶民にも味わえる世の中になった・・・・」と言う印象です。

こう言う味は、絶対に素人や家庭では作れない味です。
稀代のプロとは言え、一代で出すのも難しいでしょう。つまり、プロ洋食コックさんが「何代にも渡って」毎日毎日練りに練って来た歴史の重みを持つ「荘厳な味」「おごそかな味」です。

単に美味しいと言うよりも・・・・「食べ物としてのレベルが高い」「存在する位が上」と言う印象です。



この王侯貴族レベルの超絶美味を・・・・知らないで過ごすと言うことは、「人生の時間の損失」に他ならないでしょう。
こう言うお店との衝撃的な出会いは、わずかに「一日」で、食べた人の「食」に対する価値観を根底から変革してしまう気がします。

なお、こちらのお店は、ランチ時など満席になる事もあるようですので、早めに予約をしてから訪問される事をお薦めします。






驚愕の味覚体験の余韻が冷めやらぬまま、御茶ノ水駅周辺の雑踏に戻るのが嫌だったので、
ほてった心身をクールダウンさせるためにも、帰りに1階店舗へも寄ってみました。

一階は、私が地下へ入店した時はほぼ満席でしたが、サラリーマンやOLが多いのか、お昼休みの1時を過ぎ、一斉に引き上げてしまったようです。





実は1階のレジ近くは、小川軒の「グッズショップ」コーナーになっています。
様々なオリジナル商品が並んでいますが、目の前の三種類のレトルトパウチは、小川軒謹製の「ビーフカレー」、「デミグラスソース」、「ミートソース」です。思わず三つとも買ってしまいました。

また左の小さなバスケットに入っているのはコーヒー粉なのですが、聞けばこちらで出しているコーヒーに使われているオリジナルの粉だそうで、もちろんこれも買いました。
ラベルを見ると「珈琲実験室」(東京都八王子市)と言うメーカーの「マイルドブレンド」でした。
あまりに美味しいコーヒーなので、スタッフの方へ淹れ方を伺ったところ、お店ではサイフォンやペーパードリップではなく、高価な珈琲マシンを導入して一杯ずつ淹れているそうです。
また、地階と1階では使っているマシンのグレードが違い、地階の方が高いマシンで入れており、最初に蒸気による完璧な「粉の蒸らし」を行える事がこのマシンの特徴だとのことでした。

ただし、コーヒー「豆」ではなく、既に挽いてしまってある「粉」と言うことで、あまり多くは期待できないかも知れません。
なぜなら、コーヒーは「粉」になってしまうと表面積が異常に増えてしまいますので、どのような超良質コーヒーであっても本来の「芳香」は一気に揮発してしまい、その類まれなる「美味」も数時間も保てないと思った方が良いでしょう。

日本のコーヒー文化のレベルと言う意味では、各家庭での高性能コーヒーミル(コーヒーグラインダー)の普及率のあまりの低さが、本来はタブーであるコーヒーの「粉」状態での流通・販売を加速してしまい、真のコーヒーの美味や魅力の理解や文化の普及を妨げているとしか思えません。
実際、こちらの「粉」を、自宅でどれだけ丁寧にドリップしてみても、店内で頂いたような超絶のコーヒーは再現できませんでした。





さて、「小川軒と言えばレイズンウィッチ」、「レーズンウィッチと言えば小川軒」と言うほどに有名な洋菓子です。
料理やコーヒーが・・・・これ程までに、「高貴&美味」な小川軒の人気の一品となれば、これは買わなければ悔いが残るというところでしょう。
「レーズンウィッチ」10個入りの箱(1050円)を一つ買いました。

もう一つの人気商品に「トリュフショコラ」があります。
こちらも、きっと素晴らしく美味しいのだと思いますが、さすがに手荷物が多くなり過ぎてしまうので・・・・・こちらはまたの機会とすることにしました。





「レイズンウィッチ」です。
冷蔵庫で保管していたため、包装紙にうっすらと霜が付いています。
ちなみに販売の時点からヒンヤリと冷蔵してあります。フレッシュクリームが使われているからでしょう。
自宅に戻ってからさっそく頂きました。





包装紙には、原材料として「小麦粉、砂糖、バター、卵、植物性油脂、洋酒、膨張材、レーズン、アーモンド、香料」と書かれていました。
白いクリームは植物性脂肪なのでしょうか・・・。そう言えばホイップクリームよりは、意外にサッパリしていました。





クッキー部分は「サクサク」とする軽い歯触りを想像していましたが、さにあらずです。
歯応えが「重い」と言うか、「重厚」と言うか・・・・意外にしっかりとした歯応えがあります。

また、「ヒンヤリ・・・」とした口当たりの「冷たさ」が大きく魅力を支えていますので、冷蔵庫でしっかりと冷やしてから食べるのがコツだと思います。
冷やされたクリームが、まるで「アイスクリーム」のような美味しさです。
高級そうな洋酒がほんのりと漂い、クリームの風味が爽やかで、サワークリームっぽさもあります。

全体としては適度な甘味に抑えられ、誰にでも喜ばれそうな甘さです。
ただ、表面のアーモンドスライスは、芳ばしさを加えていますが、その存在感がやや強すぎて、アーモンドの味が勝ち過ぎてしまい、個人的にはやや味がうるさくなり過ぎてしまう気がします。

クッキー部分はしっかりと量感があり、レーズンもどっさりと入っているので、結構な食べ応えがあります。
サクサクとスナック感覚で次々に手が伸び、何個も食べられると言うのではなく、一個を食べるだけで、いろいろな意味でそれなりの満足感が得られると思います。



(すべて完食)











ホームへ


− BB!ラーメン&つけ麺 名店集 −



本サイトのすべての画像や文章の転載ならびに二次利用を固くお断りします。

Copyright (C) 2004
01ch.com
All Rights Reserved.


.