01ch グルメ食べ歩き
野田岩 本店
(東京都 港区)

店名 天然うなぎ 五代目 野田岩 本店(のだいわ ほんてん)
住所等 東京都港区東麻布1-5-4 【地図表示】
禁煙 タバコ分煙(1階席は完全禁煙)
訪問日 2005年11月中旬 鰻重「梅」(天然鰻) 3150円  + 肝焼 735円 
2006年8月下旬 鰻重「梅」 3150円  (別途サービス料10%)




〜鰻 野田岩 その1〜



2005年11月中旬 鰻重「梅」(天然鰻) 3150円  + 肝焼 735円 

今回は、なんと江戸時代末期創業という老舗中の老舗、さらに都内でも一、二を争う「江戸前うなぎの名店」と巷で評判の「野田岩」(港区・神谷町or赤羽橋)さんを訪問してみました。
古くから皇室の方々にも愛され、かの島崎藤村もこちらで出前をとったと言われている老舗です。
お店は既に「五代目」の店主さんによって切り盛りされているとの事です。

こちらのお店は歴史の長さもさることながら、ともかくできうる限り「天然鰻」にこだわっているお店として有名です。
今や大多数の鰻が「養殖鰻」ですし、中国産の輸入物も少なくない中で、その心意気は見事なもの。
東京を代表するうなぎの名店のプライドとして、他店とは「背負っているものが違う」と言う印象を受けます。

実は、こちらには二年ほど前にも訪問させて頂いていますが、自他共に認める「うなぎ好き」の私としては、過去食べ歩いた無数の「うなぎ屋さん」の中で、二位以下を大きく引き離して、断然「No.1」のお店です。
ただ、前回は真夏の七月の訪問で、食べたのは「天然うなぎ」ではなく、「養殖うなぎ」でした。
今回は、普通の「鰻重」を頼んだのですが、幸運にも「天然鰻」を頂くことができましたので、レポートしたいと思います。




夕方の部の開店時間より早く着いてしまったので、近年立てたと言う「別館」を見に行きました。
本館から徒歩1分程度の場所です。写真左手のレンガ貼りの縦に細長いビルです。




しばし時間をつぶしてから本館を訪問。
地下鉄「赤羽橋駅」もしくは「神谷町駅」から徒歩5分ほどの場所です。

お店は東京タワーから200mと離れていない場所にあり、東京タワーとは桜田通りを挟んで道向かいになります。
その桜田通りにかかる歩道橋の上から一枚写真を撮ってみました。

建物は一見すると小さな「蔵」のような造りですが、実は左隣の大きなビルとつながっています。
ちなみに、車で来た場合、仲居さんへその旨を告げると、徒歩3分ほど離れていますが、東京タワー下の有料パーキングの無料チケットを頂けます。




植木の左手に見える引き戸から入ります。
ちなみに、これだけ有名なお店ですので、混雑シーズンは当然ですが大行列することも決して珍しくありません。

時間には十分な余裕を持って訪問した方が良いと思います。




一階は入口を入ってすぐ左手に、テーブル席スペースがあります。
ノレンの奥が厨房です。ノレン越しにちらっと見える仲居さん達は全員が「粋」な着物姿です。

ところで、都内で「うなぎ」の名店と言えば真っ先に名前の挙がる「野田岩」ですが、訪問してみれば、素晴らしいのは決して「うなぎ」だけではない事を知るでしょう。
その名店「野田岩」の名を揺るがぬものとしているのが、実はこのお店の「接客」の凄さだと思います。

一階では、着物姿の女性4名ほどが接客と配膳に当たっているのですが、その接客は、言動の一つ一つ、立ち居振る舞いのすべてが・・・限りなく「おしとやか」、「親切」、「上品」、そして「真心」に満ち溢れたものです。
何と言う素晴らしき「物腰の柔らかさ」なのかと、感心してしまいます。

仲居さんは、決して若い方ばかりではありませんが、いずれ劣らぬ生粋の「お嬢様育ち」・・・・と言う印象を非常に強く感じます。
ともかく「心が澄んでいる」「心が美しい」と言う感じで、心の中に「険」や「邪」と言うものが絶無な感じなのです。
うむむ・・・・麗しき「大和撫子」の在りし日の姿を垣間見るようです。

接客技術とか社員教育とかの範疇ではなく、およそ東京一の名老舗に勤めているという「自覚」がそうさせているのでしょうか。この店の持つ雰囲気や歴史の重みが人を育てているように感じます。
これほどに気持ちの良い時間が過ごせるお店も少ないでしょう。美味しいうなぎが、さらに一層美味しくなります。

今回たまたまなのではなく、二年前に来た時もまったく同様の感想を持ちましたので、これもまた「野田岩」の魅力の一つなのだと確信しました。実に素晴らしいことです。




2Fに上がる階段です。二階より上は座敷席(個室)となっています。

飛騨高山から合掌造りの建材を取り寄せて内装を組んだそうで、がっしりした太い柱や梁が目を引きます。
ガラスケース内の模型は昔の野田岩でしょうか?




二階へ上がる階段の踊り場です。ちなみにトイレは二階へ上がり廊下の一番奥にあります。
絶妙な薄暗さが良い感じに「老舗」の雰囲気を盛り上げています。




二階のお座敷席の一つです。
料亭風の趣です。個室には灰皿が用意されているようですね。




二階の一番奥にあるお座敷席です。

明治時代を彷彿とさせるような「味」のある調度品ですね。
早い時間に訪問したので、二階席はまだ来客がなかったようです。




メニューの一部です。
鰻重の「梅」と「肝焼」を注文しました。
ちなみに「肝焼」は数量限定のようで、オーダー可能な時は、壁に「本日、肝焼きございます」と貼り出されています。

メニューをみると、「志ら焼」(白焼)については天然鰻を使うものの、不漁期には養殖鰻で提供すると書かれています。また、「天然鰻」(大串、筏)と言うメニューもありますが、こちらは「時価」と書かれています。
ちなみに「鰻重」や「蒲焼」については、天然物か養殖物になるかは、どうやら「入荷」の状況次第のようです。




焼き上がりまでお茶を飲んで気長に待ちます。

箸袋には天然物ゆえ、釣り針にご注意との注書きも・・・・。





さて、注文をしてから約35分後、「肝焼」が登場しました。
お弁当箱のような保温箱に入っています。箱に触るとまるで「カイロ」のようにホカホカしています。





これが野田岩の「肝焼き」です。
ぱっと見た感じでは、5〜6匹分のうなぎの「肝」を使っているようです。

一口食べてみると・・・・タレが「ネトッ・・・」としていて、舌にネトネトからみつくような感じですが、焼き鳥のタレのような甘味がないので、肝のデリケートな苦味がそのまま舌に感じられます。
うーん・・・ほろ苦い大人の味です。

そして全体にプニプニとした弾力があり、クニクニする部分などもあり・・・・いかにも魚の「内臓」と言う感じの歯応えです。
「珍味」と言うか、お酒の「肴」に最適と言う感じですね。



さて・・・・・・・・・・・。





いよいよ待望の「真打」、鰻重のご登場です。
時計を見ると、オーダーをしてから丁度「45分」でした。

なお、注文が入るごとに「活きた鰻」を桶から取り出し、鰻包丁で割き、一本一本串を打ち、白焼きをして、蒸し器で蒸し、タレを付けて焼く・・・・この全工程には鰻の大きさや店の調理法にもよりますが、通常「40分前後」かかります。
ですので、もし10〜15分など、極端に早い時間で鰻重が提供されるようであれば、おそらくは「白焼き」や「蒸し」などまで済ませてあった鰻であったり、あるいは、焼き上がっていた鰻を単に「温め直しただけ」と言う可能性があります。

常に行列が出来るようなお店であれば「見込み」で次々に調理してタイミング良く「出来立て」を出すことも可能でしょうし、もしそうでなくても、作り置きしたうなぎをすべて否定する訳ではありませんが、
もし出来上がってから、あまりにも時間が経ってしまったり、保存の状態が悪かったりすると、身が硬くなってしまい、まさに「スーパーで売られている鰻」の食感に近くなってしまいます。

特に「鰻の黒皮」がまるでビニールのように硬くなって、ビヨンビヨンと伸びる感じになってしまい、決して口の中でトロけません。本来であれば、何より鰻はこの活性化した皮ぎしの脂こそが抜群に美味しいものなのですが・・・・。
それゆえ、「こだわるお店」は、だからこそ、活きたウナギを、わざわざ客が来てから割き、一連の淀みない調理の後、まさしく「出来立て」「焼き立て」を出してくれるのです。

香の物と肝吸いも付いてきます。
また右上の白いものは箸休めのダイコンオロシです。





鰻重を運んで来てくれた仲居さんが、「本日の鰻は、天然の鰻を使わせて頂いております。」とニッコリ微笑んでくれました。

まったく予想していなかったので、予期せぬ嬉しい「サプライズ」に胸が高鳴り、心が躍ります。
私は、記憶にある限りでは、「天然うなぎ」を食べるのは初めてです。

フタを開けた途端、周囲には、素晴らしい「馥郁たる香り」が一斉に香り立ちます。
そして、蒲焼にされた鰻を良く見ると、脂がたっぷりと乗ったコテコテ系ではない事が判ります。

また身肉は適度な身の厚みであり、「肥えた」「太った」鰻ではありません。ただし、身が「薄い」と言う感じではなく、「身が引き締まっていている」と言う感じです。
同じ川魚である「鮎」も、養殖の鮎はずんぐりと太い体型ですが、天然物の鮎は実に引き締まったスリム体型であることを思い出します。

ちなみに、串打ちの修行は、「3年」とも「5年」とも「8年」とも言われていますが、天然の鰻は、身肉が薄く、皮が硬いため、まるで薄いゴム板に串を通すようで、天然鰻の「串打ち」は、特に「至難の業」であると言うことです。

それにしても、全く、一切、どこにも、黒い「コゲ」がないのには・・・・実に驚嘆させられます。
実に、凄まじいまでの・・・・「焼き」の技量でしょう。





さて、いよいよ食べてみます。
箸で上手にうなぎの身肉を裁断し、押し寿司のような四角いブロック状にしてほおばります。

「ハフッハフッ・・・・モグモグ・・・・。」

「ハフハフ・・・・モムモムモム・・・・・。」


数秒後、私の脳内に閃いた正直な感想とは・・・・・。


「おおお・・・?」
「こ、これが・・・鰻の味なのか?」 ・・・・・ でした。


もちろん美味しいです。芳ばしくて、もの凄く美味しいです。

ただ・・・・潜在意識下で、先入観で、予想していた味とは随分と異なる香りと、味と、脂感と、歯応えが口中に展開されて・・・・少々面食らいました。


こ、この食味は・・・・・。


ま、まるで・・・・川魚・・・・・。


そう、まさに白身の「川魚の味」なのです。


つまり河原に立った時に鼻腔に感じる、あの「川の香り」、そして「鯉」(こい)や「鯰」(なまず)などと同じ世界に住む仲間の「魚」の味がするのです・・・。
そして、当然ですが、旨味も脂の乗りも、「節度」があります。どこまでも「自然な姿」なのです。

歯応えも、今まで私が食べて来た鰻のそれではありません。
やたらと「柔らかさ」一辺倒ではなく、身肉の筋肉繊維がきれいに立ち揃っている感じで、いかにも魚のれっきとした「身体」を感じさせる細やかな繊維感の良さがあります。

比べると、養殖物は、鰻があまり運動しないためか、筋肉が発達せず、蒲焼にすると身肉がトロトロにとろけて、まるで身肉の繊維感がなくなってしまい、「魚」と言うよりもまるで柔らかな「絹ごし豆腐」を食べているような感触です。
その状態を、「ふっくら柔らかくて美味しい」・・・・と言う事もできるのかも知れませんが・・・・。

よくよく考えれば、そもそも「鰻」はれっきとした川魚なのですから(幼魚期や産卵時は海で暮らしますが)、川魚の味がするのがむしろ「当たり前」なはずです・・・・。
しかし、世間での「鰻」に対する固定観念においては、その「当たり前」が「当たり前でなくなっている」のが、実情だと思います。
既に「川魚の味」は求められておらず、ともかく「ふっくら」して、甘い脂がジュワッと乗っている、ギトギトしたたっている・・・・物が、鰻の「あるべき姿」「理想の鰻」だと誤解されていると思えてなりません。


「うーん、これが本物のうなぎの味だとしたら・・・・。」
「では、過去、今まで自分が食べて来たものは、一体何だったのか?」と言う、実に複雑な気持ちに成ってしまいました。

こう考えると・・・・世間で言われている「脂」のタップリ乗った「柔らか鰻」は・・・・実は、人間のエゴイズムで勝手に都合の良いように人工的に創り出された、本来の自然な鰻の姿とは全く異なる、「人為的な味」なのであり、大きく「加工された姿」・・・・なのだと考えざるを得ません・・・・。





タレは、鰻の味の輪郭をそのまま残す「極あっさり」とした粘度の低い薄味のサラッとしたタレです。
天然鰻の肉体美を損なわないよう、極めて「薄着」にさせている感じです。

身肉はホクホク、ホッコリしていますが、注意深く食べるとはっきりと身の筋肉の「繊維感」が舌に触り、食べれば食べるほど「天然ウナギ」は、歯応えが違うと判ります。
そして、今まで食べて来た養殖のウナギには決して無かった「味と香り」が静かに口中を満たし、飲み込んだ後も、舌の上にその感覚がしっかりと残る感じがあります。
もちろん、しっかりとドロ抜きされていて泥臭さや雑味と言うものは一切感じられず、清々しい良い味と香りだけが見事に残るのですが、その「味と香り」こそ、まさに自然の川の香りであり、ウナギが食べた天然の川エビなどの香りなのだと思います。

この歯応えや、味の濃さの違いを、もし何かに例えるなら・・・・。
柵に囲まれた狭い養豚場にぎゅうぎゅうに詰め込まれて、配合飼料で飼育された家畜の「豚」の肉と、急坂だらけの険しい山野を自由に駆け巡って天然の自然薯などを食べて育った「猪」の肉の違い・・・・。
もしくは、まるで人工飼育で無理やり太らせたガチョウの肝臓「フォワグラ」と、野生の天然鴨の肝臓を食べ比べるようなものでしょうか。

「脂の乗り」では、最初からそれを目的にほとんど運動させず、多量の高カロリーのエサを食べさせる人工飼育の方が、はるかに味も脂も「濃厚」でしょう。人間が美味しいと感じるように作られた末での味なのですから当然です。
一方で野生の猪や鴨の味には、人の手によらず、厳しい自然を生き抜いている野生の「尊厳」がある味だと思います。

ちなみに、2年前の夏にこちらのお店で食べた時は、焼き方ももっとこんがりと芳ばしく、タレの味も濃く、全体として明確なパンチがあった覚えがあります。
前回の汗をかく夏シーズンと、今回の寒い冬シーズンの違いによる味の濃さのチューニングもあるのかも知れませんが、あくまで想像ですが、養殖の鰻とは身肉の厚さや脂のノリが違う以上、タレや焼き方も微妙に変えているような気もします。





さらに・・・・「天然鰻の味」だけではなく、添えられた「香の物」や「箸休め」、「肝吸い」などを食べると、再び「野田岩」の凄さに震撼してしまいます。

肝吸いや香の物など・・・・大抵のお店では「漫然」と、ただ「出せばいい」と考えているように感じられるのですが、こちらの野田岩では、これらの全てが「蒲焼の味」を100%引き立てるために、どれほど入念に吟味され、いかに配慮、熟慮、工夫されて添えられているか・・・・まじまじと実感、理解させられてしまいます。

人間の舌はどれだけの美味でも、同じ味が続いてしまうと「慣れ」によって鈍感になってしまいます。
その意味で、舌を覆い尽すひんやり冷たい大根おろしは、口中のウナギの脂を一度きれいさっぱりと取り去り、舌の上をスッキリさせ、見事にリセットし、鰻の美味しさの「一口目の感激」を何度でも堪能させてくれる素晴らしい工夫だと思います。

香の物も、味付けも強すぎず弱すぎず、いずれも水気の多いサッパリしたもので、脂の多い蒲焼と驚くほど相性の良いものばかりです。

肝吸いは三つ葉が散らされていて、上品ながらもコクがあって美味しい汁ですが、おそらくは敢えて薄味に仕上げられていて、熱い汁が鰻のタレの味を溶き伸ばすのに丁度良い塩梅であるとともに、見事に舌の上を洗い流してくれます。
肝はホクホクしていて、苦味が湯へ溶け出したのか、それとも天然物ゆえなのか、実にあっさりとした味わいに感じられました。

まさしく、作り手自身で実際に蒲焼を食べながら、これらの一品ずつを「厳選」し尽くしたと思える、完璧なる「布陣」「チームワーク」である事が判ります。
ともかく「鰻」を、少しでも、よりほんの少しでも・・・・美味しく食べて欲しいと言う、飽く事なき「執念」を感じさせられ、言葉を失ってしまいます。


大満足とともに食べ終わってみれば・・・・。

まさに、目からウロコが10枚は落ちた・・・・と言う感じでしょうか。
二年前に食べた時は、そのあまりにハイレベルな「鰻重」の美味しさに舌を巻きましたが、今回はまったく別な面で舌を巻くことになりました。

「鰻」を、あくまで単なる「食べ物」として考えれば、たっぷりの甘い脂、ふっくらとした肉厚の身、とろける皮などの美味しさでは・・・・前回の鰻の方が上だったかも知れません。
しかし、言うなれば、前回の鰻の味はあくまで「他店の鰻の延長線上にある味」でありました。
そして、その味は「川魚」の本来の味とは異なるものです。

確かに、「ジューシーな脂がたっぷりと乗ったホクホクと肉厚の太い鰻」は、養殖の鰻ならではの魅力だと思います。
実際に、ビタミンAなどの鰻の栄養価なども養殖鰻の方が上回るようです。

以前に一度、南千住の「尾花」でうな重を食べた事がありますが、非常に身肉が厚く、しかも柔らかで、ほんのりと甘くかぐわしいクリーミーなコクのある旨味、まるで砂糖を少し混ぜた「溶かしパター」のような濃厚でリッチな脂のしたたるウナギでした。
まさに究極の養殖ウナギの美味しさでしょう。
ただ、今から思うとそれは「川魚」と言うよりも、何かクリームやバターをたっぷりと使った甘い「パウンドケーキ」のような美味しさでした。

このような路線のウナギが好きな人には、「天然ウナギ」の味は、スリム過ぎると感じられるかも知れません。
そして、身がしっかりと筋肉質で、鯉や鯰などの「川魚」の食味に近いことに、愕然とするかも知れません。

要は、「野田岩」の天然うなぎ・・・・一口、一口、ほおばる度に・・・・今はこうして重箱に身を横たえている鰻の、ついつい「生きていた時の姿」の具体的イメージが、実に鮮明に、脳裏に甦って来る味わいなのです。
思い出してみると、過去に食べて来た養殖鰻は、まるで、いずれも生まれながらにして「最初から蒲焼」であったかのようなイメージであり、たとえどれほどに美味しい鰻でも、どう想像力を働かせても・・・・「魚として生きていた」時の躍動する姿のイメージが脳裏に浮かぶことなど・・・・一度もありませんでした。



                      〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜



最後に、私なりに考えた「野田岩」のうなぎを「さらに美味しく食べる方法」をいくつか披露したいと思います。


■一つ目は、サービス精神の一環なのでしょうが、仲居さんは少しでもテーブルを広く使ってもらおうという配慮なのか、客が重箱を開けると蓋(ふた)を持って帰ってしまいます。これは二度訪問して、二度ともそうでした。
ですが、ここはぜひ、蓋は手元に置いたままにしておきましょう。
なぜなら、野田岩のうなぎは、あまりに美味しすぎて、口の中に入れると、飲み込むのが惜しくて、ついつい、長時間ゆっくりと味わいを楽しんでしまいます。
そのため、少しでも長く一口を堪能したいのですが、一方で、蓋を取った重箱の中のうなぎはどんどん冷めて行ってしまうジレンマに襲われます。
ですので、「一口ほおばっては、重箱はフタをしておく」(保温する)と言うことが、より一層ゆっくりと美味しく食べるための「コツその一」です。
そうすれば、口中のうなぎの美味しさを、何のジレンマもなく堪能し切れます。


■二つ目は、特に混雑シーズンの際は、できれば四人以上で訪問する事です。
すごい人気のお店ですので、ハイシーズンともなれば、店頭に長い行列ができているのが「普通」です。
その場合、店頭のノートに名前を書いて待つことになりますが、いかんせん「焼き」に40分以上かかるわけですので・・・客一人当たりの滞留時間はほぼ70分以上はかかると思います。
真夏の炎天下で長時間待つのはとても大変な事です。四人以上であれば予約を受け付けてくれますので、早めに予約をしておけば当日は快適です。これが美味しく食べるための「コツその二」です。


■三つ目は、上記とも関係しますが、もし「天然ウナギ」が目当てであるなら、その使用期間中に複数人で行く事です。
野田岩の箸袋にある説明によれば、天然ウナギの漁期の目安は「4〜12月」(ズレあり)だそうです。ちなみに、鰻は冬から春にかけては、川底の泥の中で「冬眠」のような状態になってしまいます。ですので、冬場は天然鰻はほとんど出回りません。
そして、もし幸運にも「天然鰻」にありつけた場合、食べ始める前に、迷うことなく全員のうなぎを少しずつ「交換」して置く事をお薦めします。
なぜなら、「養殖うなぎ」は、同一の環境、同一のエサで育ちますので「質」「味」もほぼ均一になります。同じ店で同じ日に食べれば、味にバラツキは少ないでしょう。

しかし、「天然うなぎ」は違います。
「天然ウナギ」は、日本全国の津々浦々の河川から集められてきます。できれば、指定した産地のうなぎが使えれば良いのでしょうが、天然ウナギが激減している昨今、それは容易ではないでしょう。
当然、川の匂いや水質や流れの速さは「うなぎ」の味や香りに非常に大きく影響して来ます。
また、もし同じ川で採れたとしても同一条件下の人工飼育とは異なり、一匹一匹、食べていたエサの質や量、運動量も違いますので、身の付き方、香り、脂の乗り・・・は、当然ですが千差万別と言うことになります。
つまり、同じ日に提供されるうなぎでも、すべてのうなぎは「出自」が異なり、一匹、一匹、確実に「味」が違うのです。

箱の中のウナギを交換し合うのは、ちょっとだけ、はしたない気もしますが、後で連れから「私のうなぎが一番美味しかったと思う」などと言われては、同席した者としては堪りません。
実際、この日も三人で伺ったのですが、お店を出てから、その日に食べたうなぎの評価は見事に「三者三様」でした。
これはもちろん味覚や価値観の違いもありますが、身肉の厚み、食感や香り、脂の乗り、コクなど、実際に食べた「うなぎ」そのものの違いによる部分もかなり大きいと思います。

ですので、例えば四人で行っても自分のだけを食べるとせっかくの天然鰻も一匹分だけの体験で終わってしまいますが、皆で四分の一ずつウナギを交換し合えば、その日のうちに四匹分の様々な天然ウナギの味を堪能できる訳です。
一匹ずつ微妙に味が異なるであろう天然鰻の「美味」を堪能するには良いアイディアだと思います。
これが美味しく食べるための「コツその三」です。


■そして最後に「その四」として、どうしても確実に「絶品の天然鰻」を食べたいのであれば、うなぎの旬である「秋」に、「値段は糸目をつけない」と言う条件を告げて予約をして置き、気長にお店からの入荷の連絡を待つ・・・・これしかないと思います。
ちなみに、関東平野を下る日本最大の流域面積を誇る「利根川」(別名:坂東太郎)に住む成熟した鰻が、秋に産卵のためにたっぷりと脂を蓄え、遥か彼方の赤道付近の海(産卵地)を目指し、川を下る・・・・この利根川=坂東太郎の「下り鰻」こそが特に最高の美味と言われています。


いずれにしても、ますます少なくなってゆく「天然ウナギ」・・・・。
鰻好きを自負する方であれば、間違いなく「一食の価値あり」でしょう。



(すべて完食)



iconicon <超お薦め>「天然うなぎ」通販 icon

“天然うなぎ”の美味しさを知るには、超お薦め!
「日本最後の清流」と言われる四国「四万十川」
で獲れた非常に貴重な天然鰻の蒲焼きです。

熟練職人が、特製のタレと備長炭でじっくり焼き
上げた「純天然」の絶品うなぎの味をぜひお試し
下さい。

(全日空商事提供)




↓続きあり






〜鰻 野田岩 その2〜




2006年8月下旬 鰻重「梅」 3150円  (別途サービス料10%)

残暑の厳しい八月下旬に、再び「野田岩」を訪問してみました。
土用の丑の日には少々遅いですし、鰻に脂の乗り始める秋にはまだ少々早過ぎるのですが、鰻大好きメンバーが三人揃った事から、急遽、再訪が決定したものです。




今回はランチタイムでの訪問です。
お店が面している桜田通りに架かる歩道橋の上から一枚写真を撮ってみました。

毎回、この歩道橋を渡る際に、決まって胸が高鳴ります。
こちらの「野田岩本店」は、私のような「鰻大好き人間」としては、定期的に「巡礼」すべき「聖地」「メッカ」であり、憧憬してやまない鰻界の「至宝」&「最高峰」と確信しています。




外観は「蔵」そのもののイメージです。
左側に見える黒い引き戸が入口です。ノレンは掛かりませんが営業中です。




今回は、二階の一番奥の個室を使わせて頂きました。

明治時代を彷彿とさせるような「重厚」な造り、「味」のある調度品です。
卓上に置かれた容器は、山椒と爪楊枝です。




天井に張り巡らされた太い「梁」が見事です。
照明器具もレトロ調のものです。




いよいよ待望の「真打」、鰻重のご登場です。
時計を見ると、オーダーをしてから、何と、何と・・・・約「8分」程の早さでした。

過去の二回の訪問では、注文から鰻重の登場まで、いずれも40分以上かかっていた事から比較しますと、大変にスピーディーな登場です。
個室だったためか、上がりの「ほうじ茶」も一緒に運ばれてきました。

ちなみに、周知の通り、鰻は「割き立て」、「蒸し立て」、「焼き立て」の・・・・「三立て」こそが美味しいと言われています。

ただし、注文が入るごとに「活きた鰻」を桶から取り出し、鰻包丁で割き、一本一本串を打ち、白焼きをして、蒸し器で蒸し、タレを付けて焼く・・・・この全工程には鰻の大きさや店の調理法にもよりますが、通常「30〜40分前後」かかります。
ですので、もし10〜15分など、極端に早い時間で鰻重が提供されるようであれば、おそらくは「白焼き」や「蒸し」などまで済ませてあった鰻であったり、あるいは、焼き上がっていた鰻を単に「温め直しただけ」と言う可能性があります。

しかし、この後、実際に食べてみた限りでは、そのような「作り置き感」は微塵も感じられず、一分の隙もない「完璧」な鰻重でした。
こちらのお店は、常に客足の絶えない人気店ですし、さらに8月と言う鰻の「ハイ・シーズン」のランチタイムともなれば、お店の前に行列がある事も決して少なくありません。
暑い中、出来る限り待たせずに鰻重を提供すると言う配慮の結果、おそらくは「見込み」で随時に調理し、タイミング良く「出来立て」を出してくれた物と思われます。





さて、重箱の蓋を開けてみますと、艶やかな鰻が「三連」になって並んでいました。

前回は幸運にも「天然鰻」を頂けましたが、今回は「鰻の出自」について、仲居さんから特段のご案内は頂けませんでしたので、どうやら天然鰻ではなく、養殖鰻であるようです。
また、同じメニューである「梅」でも、鰻の質や目方によって、二連になったり、三連になったりするようですね。





フタを開けた瞬間から、立ち昇るタレの芳香は・・・・無理に一言で表現すれば「香ばしい」と言う事になるのですが、
とにかくその「香ばしさ」のレベルが尋常ではありません。

何とも言えない良い匂いなのですが・・・・例えるなら、高級チョコレートに使われる「ピュア・カカオ」の芳醇な香りのような・・・・芳ばしさがあります。
おそらくは「タレ」がよほど良い物であることに加え、備長炭から立ち昇る炭火の煙に炙られたからこそ、これほどの「芳ばしさ」「香り」「匂い」となるのでしょう。

蒲焼独特の香ばしさは、鰻からしたたる「油」や「タレ」が備長炭にポタポタと垂れ落ちて、灼熱の炭火に「ジュワッ」と燃え焦がされることで、モウモウと立ち昇る煙となり、その「煙」が再び鰻に付着する事で、何とも言えない焦げたタレの香ばしさを付けてくれるのです。
さらに備長炭の煙自体で、鰻を下から「燻す」(いぶす)ことになり、「燻製効果」で炭の香りも付着し、さらに香ばしさが増すと言う二重の効用もあります。

また、上品な「焼き目」の見事さも相変わらずです。「焦げ」や「焼きムラ」の一切ない、あまりにも見事に均一な「飴色」の焼き上がりです。
串打ちの技術と、炭火の扱い、焼きの技能に卓越している証拠ですね。

私の知る限りでは、このクラスの「焼き」の技量を感じさせるお店は、他には「石ばし」(文京区)、ただ一軒のみです。





さて、さっそく「鰻重」を頂く事にします。
箸で鰻の身肉を切り分け、押し寿司のような四角いブロック状にしてほおばります。


「ハフッハフッ・・・・モグモグ・・・・。」

「ハフハフ・・・・モムモムモム・・・・・。」


う、ぅう、う・・・・・。

な、な、何と言う・・・・・「神懸かり」な美味しさでしょうか。


鰻の身肉の甘味、鰻の油の匂い、醤油ダレの芳ばしさ、備長炭の香り・・・・・
これらの全てがまさしく「渾然一体」となって醸される、荘厳で、鮮烈な、「究極の味覚感銘」の世界が口中に展開されます。

その味わいには、一切の曖昧さがなく、あまりにも強烈な美味しさのインパクトがあり、他では一切経験した事のない「鰻の旨味」の「濃縮&凝縮度」に驚かされます。

身肉もふっくらとしていながら、トロける感じと言うよりも、「フワリ・・・」と舌に乗り、鰻の身肉の繊細な繊維感を感じさせつつ、「サー・・・」と溶けるように姿を消してゆく、「魔法」のような感触・・・・。

去年頂いた天然鰻が、「繊細」で「高尚」、「深遠」なる「静の美味しさ」だったとしたら・・・・・
今回の鰻重は、凝縮された旨味の「パンチ」と「ダイナミズム」、怒涛の「スピード感」にあふれる「動の美味しさ」です。

何と言うか・・・・鰻の美味しさが、次々に「畳み掛ける」ように、幾重にも「折り重なる」ように、何重にも「囲い込む」ように・・・・・力強く、スピーディに突進して来ます。
非常に「輪郭」がクッキリと美しく描かれていて、上品ながらもしっかりと太いパンチがあり、味わいに力強い「押し出し感」があります。


また、使われている鰻の良さは「言わずもがな」ですが、今回、改めて驚嘆したのは、その卓越した「蒸らしの技量」と「焼きの技量」の素晴らしさ、そして、あまりにも普通ではない「タレ」の美味しさです。

最初の訪問時も「鰻」とともに「タレ」の美味しさに驚愕しましたが、今回改めて、こちらの「タレ」の凄まじいまでの非凡な美味しさに舌を巻きました。
鰻の蒲焼のタレと言いますと、醤油、ミリン、酒、砂糖などに、お店によっては隠し味として少量の生姜や化学調味料などを加えて作りますが、本日、こちらの野田岩のタレを改めて味わって思った事は・・・・とにかく「鰻の味」が普通でなく「濃密」だと言うことです。

つまり、「タレ」そのものから、「鰻の旨味」を煮詰めたような・・・・味がします。
これは、ほぼ間違いなく、タレその物に「鰻のエキス」成分を加えているのだと思います。

実際、鰻の老舗店ともなれば、タレの工夫も一つや二つではないでしょうし、それぞれ老舗のお店ならではの数々の「秘伝」があるのは言うまでもないでしょう。
おそらくは、野田岩では、手間はかかりますが、割いて身肉を取り去った後の鰻の「頭」や「中骨」を丁寧に焼いて、タレに漬け込み、その旨味エキス成分を秘伝のタレに溶け込ませているのだろうと思います。

この秘伝のタレのお陰で、他店の同等の価格帯の鰻に比較して、ほぼ3割は、鰻の旨味が「濃厚」&「豊富」に感じられます。
そして、ほんのりと甘味を感じますが、その甘さも「ベトッ・・・」とした感じではなく、決して甘過ぎることはありません。そして辛過ぎず、しょっぱ過ぎず・・・・見事に「円い旨味」に包まれています。
それでいて醤油の味が適度に残って生かされていて、その使われている醤油その物が非常に美味しい事も良く判ります。

うむむ・・・・私の知る限り、「日本一の蒲焼のタレ」だと思います。

そして、この味は、三年前に「野田岩」を初訪問した時に衝撃を受けた鰻重のタレと「同じタレ」ですね。
この味に比較しますと、去年の二度目の訪問の時のタレは、明らかに「薄味」でした。

ひょっとしたらですが、やはり、「天然鰻」は素材の香りや味が引き立つように極めて薄味のタレを使い、一方、「養殖鰻」の場合は、旨味のパンチと香ばしさを強調するしっかりとしたタレを使っている・・・・と思えてなりません。
また万一、もしもですが、同じタレだとしたら・・・・「天然」と「養殖」で、タレの塗る回数や量や厚みを変更していると想像します。





箸で切った鰻の断面を良く見てみますと、脂がたっぷりと乗ったコテコテ系ではない事が判ります。
実は、三回の訪問すべてで感じたのですが、野田岩の使う鰻は、身肉は適度な身の厚みであり、あまり「肥えた」「太った」鰻は好まないようです。

しかし、食べてみれば判りますが、鰻の「精気」はしっかりと濃く詰まっていて、決して身が「薄い」とか「やせている」と言う感じではなく、「身が引き締まっていている」「スリムな筋肉質」と言う印象を受けます。

また、私は、今まで鰻の「蒲焼」の美味しさを決定する一番のファクターは、「鰻の質」だと思ってきましたが、
実は最近になって、「鰻の質」よりも、むしろ「鰻の調理技術」こそが、より大きなウェイトを占めていると思うようになりました。

つまり、「割き」「串打ち」「蒸らし」「焼き」と言う一連の調理が、どのような方法で、どのようなコンセプトで・・・・そして、どのレベルの技量で成されるかと言う事です。
特に、鰻の脂を適度に落として皮目を柔らかくする「蒸らし」と、身肉をパリッとしてフックラとさせる「焼き」のバランス、そしてその技量で・・・・ほぼ、どういう食味の蒲焼になるか、決定されると思うのです。

要は、全く同じ「品質&サイズ」の鰻を調理しても、「蒸らし」「焼き」の手法や時間次第で、いくらでも「違う蒲焼」になると言うことです。
鰻の「素材」だけでなく、その「調理コンセプト」が、想像していた以上に「大きい影響」を持っていた事に、今さらながらに気付いたと言う事です。

つまり、何が言いたいかと申しますと、野田岩に対する世間の評価の多くが、天然鰻にこだわるお店として、「鰻の質」ばかりを取り上げている気がするのですが、
私が野田岩をあらゆる鰻店の中で断然気に入っている最大の理由は、野田岩の「蒸らし」と「焼き」に対するコンセプト、そしてその卓越した技量にこそ魅かれている・・・・と言うことです。
なぜなら、他のお店を食べ歩けば食べ歩くほど・・・・野田岩の「蒸らし」と「焼き」を常に「最高&究極」と感じてしまい、同じレベルの仕事を施された蒲焼とは、一向に出会えないからです。

鰻の「精気」を全く抜けさせずに、舌先で優雅に「フワリ」とする柔らかさに蒸らし上げる絶妙な「蒸らし」の技量・・・・。
パリッと火を通し切りながらも、決して焦がさない「繊細で上品」&「精緻でエレガント」な卓越した「焼き」の技量・・・・。
この二つの「技量」が、あまりにも世間一般の水準を大きく「超越している」と感じるのです。

加えて、前回はタレの薄味ぶりに多少とまどいましたが、今回、改めて「タレ」の絶品ぶりに確信を持った事で、まさしく私の「野田岩」に対する評価は、ますます「不動」のものとなりました。

野田岩の鰻は、造り込みの緻密さや、上品さ、仔細さをテーマとしたような、究極の「鰻アート」を追究しているタイプの鰻重だと思います。
そして、実は野田岩と他店との、埋めがたい「決定的な差」は、ここにあると確信しています。

つまり、単なる「鰻屋」さんではなく、高度な日本料理、和食の伝統の技法によって裏打ちされ、深い知識と非常に高い見識によって「構築」された、「格式を持つ美味」である事をはっきりと感じさせられるのです。
「鰻に精通」しているだけなら、町の魚屋さんが焼く鰻にも美味しい物がありますし、地方の鰻屋さんにも名店は少なくないと思います。

しかし、野田岩は「鰻屋」と言うジャンルを大きく超えて、「日本料理」の技法全体に精通し、より高尚な料理の世界に足を踏み入れ、
「一流の料亭」や「高級フレンチ」などと比肩できるだけのセンスと技量を持つ洗練された「第一級の料理」として存在している・・・・と思えるのです。





さて、「ご飯」も鰻に負けず劣らず、美味しいです。まさしく「縁の下の力持ち」です。

ご飯がほど良く立っていて、一粒、一粒が、パラパラとほぐれ、「ダマ」や「割れ」になっている箇所なども当然のように「絶無」、どちらかと言えばやや硬めに炊き上げているのは「重箱もの」や「丼物」の「王道」ですね。
そして、しっかりと炊かれた艶やかなご飯に、万遍なくかけられた「タレ」、そのタレをどこにもムラがなく、ほど良く吸ったご飯は、鰻の旨味と甘味をほんのりと身にまとい、蒲焼との渾然一体感を演出しています。

鰻と、その下に敷かれたご飯のボリュームのバランスもまさに「完璧」、長年の経験の生んだ黄金比率を修得し、さらに鰻の量や厚みに応じて微調整をしているのでしょう。
タネとシャリのバランスが「命」である「寿司」ほどではないかも知れませんが、鰻重もいわば一種の「押し寿司」のような形で口に入ります。
「鰻」と「ご飯」のバランスで、味が大きく左右されるのは言を待たない事でしょう。


さて、食べていて後半、やや鰻が冷め始めて来ますと、次第に「コッテリ感」が感じられ始め、ややウェイト感、重さ・・・が感じられて来ました。
そこで、試しに「山椒」を少しだけ使ってみましたが、この山椒がこれまた「只者ではない」存在でした。

少し振り入れただけなのに、まさに「香り立つ」「匂い立つ」と言う言葉どおりの素晴らしく馥郁な芳香です。
まるで・・・・鬱蒼と茂る「山椒の森」の中を自然散策して、歩いているかのようです。

しかも、それでいて、良い具合に風味が枯れていて、「葉」に由来する青臭さが絶無なのです。つまり、香りが強すぎず、決して出しゃばらず、押し付けず・・・・一通り香りを楽しませてくれた後は、「スーッ・・・」と姿を消してしまいます。

また、心地良い「香り」だけを感じさせてくれて、あまり「味」・・・つまり山椒に特有の「痺れ」を感じさせない種類の山椒を選び抜いているようです。
あくまで鰻重ワールドの「全体の調和」を乱さない優れた配慮がされています。

この山椒を使いますと、まるで「いぶし銀」のような枯淡な風味を蒲焼に添えてくれて、素晴らしく「風雅」な「和」のテイストになります。





「お新香」の中では、特に細かく刻まれた「キャベツ」が「シャキシャキ、パリパリ」として異常なほどの美味しさです。
大根葉が混じり、少しだけ醤油がかかっていましたが、それ以外にも隠し味的に極僅かですが針生姜が混じっているような気がしました。

「カブ」には「酢」がしっかりと効いていて、鋭角的なキレ味の鋭い酸味が口中にあふれ返ります。
随分と酸っぱく感じられましたが、その酸味で、口中に唾液をどっさりと出させて、舌をリフレッシュし鰻の油を洗い流す役割なのでしょう。

「キュウリ」は硬すぎず、「パキュパキュ」と明るくクラックし、「シャクシャク」と歯応えが非常にリズミカルで、絶妙な塩気とともに、その歯応えの明るさがちょっとした気付け薬のような役目を演じています。
茶色の奈良漬(?)のような物は、少しだけ辛味の付いた古漬けのようで、「ゴリゴリ」と小気味良い歯触りを楽しませてくれます。

もう一方の「大根オロシ」も超絶の美味しさ・・・・。
食べてみますと、何とも非常に「細やか」な舌触り、「滑らか」な口当たりで、食感の乱れが絶無です。
大根の「繊維」の粗さが一切舌に触らず、大根の「糸」や「筋」が舌に一切残らないのです。卸し金で摩り下ろした後、まるで、一度「裏漉し」したかのような・・・・まさに「淡雪」のような口解け感ですね。

これは使った卸し金の「刃」が非常に優秀で、大根の繊維を一切「つぶさず」に、完璧に「裁断」しているからです。その道のプロが目立てした高価な「銅製の卸し金」を使っているのは、まず間違いないでしょう。

舌の上に乗れば、まるで油吸い取り紙の如く、一瞬にして、見事に舌の上の鰻の油を取り去り、タレの味を拭い去り・・・・舌のコンディションを完璧にリセットし、「無垢」なるサッパリ感だけを舌に残してくれます。
鰻の美味しさの「一口目の感激」を何度でも堪能させてくれるイリュージョンです。

さらに、蒲焼のタレのほのかな「甘味」とコントラストを描くように・・・・大根のほのかな「辛味」が口中に漂い、食べ疲れすることなく、再び、自然と「蒲焼」が食べたくなると言う・・・・素晴らしい工夫がなされています。

器に残った大根の汁を飲んでみますと・・・・瑞々しいナチュラル感にあふれる優しい「すっきり」「あっさり」「さっぱり」の三重奏・・・・これまたダメ押し的な美味しさでした。





「肝吸い」も、これまた・・・・あまりにも「完璧」です。
やたらな和食店が裸足で逃げ出すほどのダシ汁の美味しさと、三つ葉の香りと柚子の香りがマリアージュして醸される「絶品」のお吸い物は、単なる付け合せの域を大きく超えた見事な美味しさ。

肝自体も、肝本来のナチュラルな「旨味」と「ほろ苦味」が、そっくりそのままの姿で見事に閉じ込められて残っているイメージです。
「ムッチリ・・・」「クニクニ・・・」とする独特の歯応えは、やはり魚の内臓の食味ですが、「臭み」や「汚れ」や「エグ味」が一切なく、ただただ「深く」、「濃く」、「鮮烈」な美味しさ。

姿形はこんなに小さいのに、噛んでも、噛んでも・・・・50回位良く噛んでも、いつまでも、歯応え、旨味ともに衰えず、むしろ旨味に関しては噛めば噛むほど、増大してくる印象さえあります。
結局・・・100回位噛んでも、まったく旨味がなくなりませんでした・・・・。

使われている三つ葉の葉が、非常に「薄い」のにも驚かされました。その薄さが、実に細やかで優しい「繊細」な口当たりを生んでいます。

また、食後用に提供された「ほうじ茶」の香りの良さと来たら・・・・焙煎による独特の香ばしさとさっぱりとした飲み口が、鰻の油やタレの味をさっぱりと洗い流すとともに、最高の後味の余韻を反芻させてくれました。

「絶品の鰻」「伝統のタレ」「良質の備長炭」「蒸しの技術」「焼きの技術」「美味しいご飯」「肝吸い」「お新香」「大根オロシ」「二種類のお茶」「究極の接客サービス」・・・・そのどれか一つが欠けても決して成立しない、
これらの全てが、極めて「高い位置」でバランスしたこちらのお店・・・・単なる「うなぎ」自慢に終わらない、この恐るべき「鉄壁の布陣」こそが「野田岩」の真骨頂に間違いないでしょう。


ちなみに、「鰻食べ歩き」と言いますと、ほぼ100%「ウナギ」の大きさや質ばかりが話題になり、評価の対象となりがちですが、あくまで「鰻重」で食べる場合、当然のように「ご飯」「汁物」「漬物」などと一緒に、交互に食べるものですので、「ウナギ」の良し悪しだけを評価しても片手落ちでしょう。

ところが、世の多くのウナギ料理店が、「蒲焼」の出来栄えばかりを気にして、他のご飯、汁物、漬物、山椒、お茶などは、まるでオマケだとでも言わんばかりに、単に「出せばいい」的に「おざなり」になっていると感じる事が多い中、
こちらのお店はあくまで、ご飯や汁物や小鉢と異様に高いレベルで「三位一体」となって、きちんと一つの「味」としてまとまり、一つの「完全無欠の世界」を築いています。

この事は前回訪問の際も感じていた事ですが、今回改めてこちらで鰻重を頂いて、はっきりとした「確信」に変わりました。
こちらの鰻重と汁物、小鉢で構成されるチームは、どこにも死角のない完璧な仕上がり、360度、ありとあらゆる角度から入念なチェックを繰り返し、吟味に吟味を重ねて出して来た印象で、ただただ感心するばかり、どこにも一分の隙もありません。

テレビのマラソン中継に例えれば、「蒲焼」単独でも二位以下を大きく引き離しているのに・・・・さらにご飯が加わった「鰻重」となった時点で二位以下をテレビの画面から消し去り、
さらにさらに・・・・汁物や漬物、山椒、お茶、接客サービスなどが組み合わされた時点で、二位以下に10分以上の無類の「圧差」を付けて、「独走のゴール・イン」・・・・といったイメージでしょうか。





こちらは同行者の一人が注文した「鰻重」の「菊」です。

せっかくなので鰻のサイズの違いを見るために、写真を撮らせて頂きました。





こちらも、どこにも黒く焦げた箇所がなく、見事に均一に「飴色」に焼き上げられています。

本当に野田岩の「蒸らし」と「焼き」の技量は、つくづく「お見事」の一言です。





さて、あまりの美味しさに時間を忘れ、ゆっくりと食べていたせいか、お店を出る頃には「昼の部」の終了時間となってしまいました。
ちなみに、以前の二回の訪問時は気付かなかったのですが、会計には奉仕料(サービス料)が10%かかりました。

ところで、会計を済ませ、席を立って再び炎天下へ出る前に、暑い夏と言うこともあり、冷水が一杯欲しくなりました。
最後に仲居さんへ「お冷を頂けますか?」と申し出たところ、快く、かつ、素早く応対して頂けたのですが・・・・その供された「お冷」を一口飲んで、その想像を超えた美味しさに「震撼」してしまいました。

まさに、目が覚めるような・・・非常に美味しい「清冽」なお水でした。

カルキ臭などは絶無で、浄水器を通した美味しい水、もしくはミネラルウォーターなのは疑う余地もないのですが・・・・
しかし、本当に度肝を抜かれたのは、何よりこの「お冷」が・・・・信じ難いほどに、あまりにも見事に、パーフェクトな「最適温度」に冷やされていた事です。

単なる「水」でも、いざ、それを「飲み物」として考えた場合には、「ぬるく」ても、「冷たすぎ」ても・・・・決して美味しくありません。
たかが「冷水」と軽く考えてしまいがちですが、これだけ見事に「的を射た」最適温度で提供してくれるお店が、果たして、都内広しといえど一体何軒あるでしょうか?

季節や天候、気温や湿度によって、人間が美味しいと感じる「水の温度」は大きく異なります。おそらくは、きちんと毎日の天候や気温を判断して、冷水機の水温調整を細かく行っているのでしょう。
しかも、せっかくの完璧な適温の冷水を、室温のグラスに注いでしまっては、温度が変化してしまいますので、何と・・・・驚く事に「グラスごと」冷やされていたのです。

さらに、「氷」は入らずに提供されたのですが、氷を入れないのも、氷の温度に影響を受け、冷水の温度をやたらと低下させ過ぎないため・・・・なのだと理解できます。

うーん・・・・最後の最後まで、心の底から感動させてくれます。
こちらのお店は、「人が美味しいと感じるノウハウをすべて完備し、人の舌を知り尽くし、もてなしの心を見事に実践しているな・・・」と感じます。

「鰻が美味しいのは当たり前の事、このお店はさらにその遥か先に到達している・・・・」と感心してしまいます。
いやはや、単なる「鰻」と言うジャンルを超えて、あらゆる飲食店、あらゆる料理店、あらゆるサービス業の、間違いなく「頂点」に立つ名店の一つだと思います。




さて・・・・食べ終えての感想ですが・・・・

「満足度」は、事前の「期待値」が大きければ大きいほど、「反比例」して小さくなります。

そう言う意味では、今回で三度目となる野田岩への訪問・・・・過去二回の大満足度から今回も思い切り「期待」して訪問しましたので、果たして満足度はどうなることかと思いましたが、
今回、その期待値のさらに数段「上の世界」を、さらなる「高み」を披露された思いです。
一体、「野田岩」にはどこまで「上」があるのか、果たしてその懐はどこまで「深い」のか・・・・と感無量です。

そもそもの「鰻の質」から始まって、後に続く「割きの技」「串打ちの技」「炭火の扱い」「タレの味」「蒸らしの技」「焼きの技」「ご飯」「肝吸い」「漬物」「山椒」から、「お茶」や「接客サービス」に至るまで、
まるで、プロ野球で言えば、すべてに「一流のスタープレイヤー」を揃え切った、「ドリーム・チーム」のパーフェクトなプレイを観戦する気分です。
しかも全員の実力がきっちりと「同水準」以上に揃って存在し、「全員の息がピッタリ合っている」のですから・・・・・これ以上の何を望むと言うのでしょうか。

他の多くの鰻店とは、既に「味の比較」の次元ではなく・・・・・
明らかに「格式が違う」「目指す物が違う」「背負っている物が違う」・・・・・と思えてなりません。



(すべて完食)



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