01ch グルメ食べ歩き
並木藪
(東京都 台東区)

店名 並木 藪蕎麦(なみき やぶそば)
住所等 東京都台東区雷門2-11-9 【地図表示】
禁煙 タバコ可否不明
訪問日 2006年12月下旬 ざるそば 650円
           かけそば 650円




〜並木藪蕎麦〜



2006年12月下旬 ざるそば 650円 + かけそば 650円

今回は、都内でも屈指の「有名老舗そば店」との呼び声が高い、巷で評判の「並木藪蕎麦」(台東区・浅草駅)さんを訪問してみました。
創業は1913年(大正2年)と言う都内でも老舗中の老舗であり、しかも世に言う「藪御三家」の一角を担うお店としても知られています。実際に数多くの「蕎麦ガイド本」への掲載を始め、インターネットの「日本蕎麦系サイト」でも、ほぼ必ずと言って良いほど掲載されている人気店です。

12月、師走の夕方近く、まだ大晦日には少し早いでしたが、「年越し蕎麦」気分で今年最後のお蕎麦を食べに伺わせて頂きました。




浅草「雷門」から南下する大通りを150m程歩くと、右手にお店が見えて来ます。
ビルの狭間に息づく、今でも「古き良き時代」を残す佇まい・・・・色濃い「風情」を感じさせます。
その雷門前と言うロケーションから、贔屓(ひいき)筋からは、「雷門の藪」とも呼ばれて親しまれているようです。

浅草観光の一貫として訪問するにも絶好のお店であり、実際、「蕎麦ガイド本」だけでなく、「東京観光ガイドブック」などでも、浅草周辺の名所スポットとして紹介されていることが少なくありません。
そのためか、訪れる客層には、地方からの観光客や外国人旅行者などの姿も少なくないようです。




こちらのお店は、蕎麦屋さんとしては、マスコミ登場回数でも群を抜いていると思いますが、グルメ漫画の金字塔「美味しんぼ」にも実名で登場しています。
さらに、世の蕎麦好きのバイブルの一つでもある 名著「ソバ屋で憩う」(杉浦日向子とソ連編著)において、巻頭を飾る「特撰五店」の一つとして紹介されているお蕎麦屋さんとしても、つとに有名なお店です。
ちなみに特選五店とは、 浅草「並木藪蕎麦」、日本橋「室町砂場」、西荻窪「鞍馬」、高田馬場「傘亭」、山形県の旅籠町「萬盛庵」・・・・の五つの名店です。

さすがの有名店ゆえ、いつも込み合っているとの事なのですが、上記「ソバ屋で憩う」の中で、著者である故・杉浦日向子氏は、並木藪をゆっくりマイペースで楽しむコツとして、午後三時過ぎ頃の「昼と夕の間に」・・・・訪問する事を推奨しています。

そこで私も、今回は平日の夕方三時半と言う・・・・「昼と夕の間」の絶妙の時間帯を選んで訪問してみました。
さすがに行列はありませんでしたが、それでも店内は5割ほどの客入りでした。




大きな「藪」の看板が誇らしそうに見えます。
良い感じに年季の入った「引き戸」が、なんとも蕎麦大好き人間のハートをくすぐりますね。

ところで、古くからのお蕎麦屋さんの「暖簾(のれん)」や「屋号」としては、「藪」(やぶ)、「砂場」(すなば)、「更科」(さらしな)、「東家」(あずまや)、「一茶庵」(いっさあん)等が有名どころですが、それぞれの系譜や歴史は 「蕎麦屋の系図」(岩ア信也著)等にとても良く解説されていますので、興味のある方は一読されると良いでしょう。

中でも特に、蕎麦の文化が花開いた「江戸時代」にルーツを持つ「藪」、「砂場」、「更科」は・・・・老舗「御三家」とも、蕎麦「三源流」とも呼ばれている蕎麦界の有名ブランドです。
そして、その御三家の中でも、「大坂」が起源の「砂場」、「信州」出身の「更科」・・・・・に比べ、生粋の江戸生まれの「藪」は、名実ともに「江戸蕎麦」の代表格として考えられているようです。

「藪」ノレン会である「藪睦会」のHPを拝読しますと、「やぶそば」の名前のルーツは、江戸幕末の頃に「根津」の団子坂にできた「蔦屋」だそうで、このお店が、広い竹藪に囲まれた場所にあったことから、客の間で「藪の蕎麦屋」と呼ばれたのが始まりだそうです。

そして、今では数多くの門下を抱える「藪一門」の中でも、特に「神田藪蕎麦」、「並木藪蕎麦」、「池之端藪蕎麦」の三店を選んで、世間では「藪御三家」の称号を与えています。ちなみに、この三店の店主氏は血縁関係にあるとの事です。
また、こちらの「並木」の冠名は、どうやら、昔はこの表通りに並木が続き「浅草並木町」と言う町名だったことに由来するようです。




さて、いよいよ左に見える引き戸から入店しました。
店内は左手に座敷席、右手に土間のテーブル席が広がり、奥が厨房です。

店内へ入りますと、その造り込みに確実な長い時の隔たりを感じさせながらも、かなり隅々まで丁寧な清掃が行き届いていて、店主さんのお店に対する愛着がまじまじと感じられます。

時代を重ねて来たお店の店構えを見て思うのは・・・・何より「壁が薄く」「窓が多い」と言うことです。
現代の機密性住宅など「有り得ない」という感じの、柔らかさ、おおらかさに溢れ、とにかく「体に馴染む」感じがあります。




ほう・・・・・なるほど・・・・・。

これぞ・・・・まさしく、「蕎麦屋で憩う」・・・・雰囲気ですね。


「木と畳」に囲まれた独特な「柔らかさ」「居心地の良さ」を持つヒーリング空間です。
やはり、本物の「木」や「畳」の持つ風合いは、ビニールやプラスチックには無い「寛ぎ感」「ナチュラル感」があり、とても「癒される」肌触りです。
少なくとも私は・・・・コンクリート製の店舗で、プラスチック製やビニール製の椅子に座っても、なかなかこう言う、「寛いだ」・・・「癒される」・・・気持ちにはなれません。

直接、肌に触れる下着や服なども「綿」や「絹」や「ウール」や「麻」などの天然繊維が、心地良く快適に感じられるのと「同じ現象」「似た感覚」だと思います。
逆にナイロンやポリエステル、アクリルなどの化学繊維の衣服は、着ていてもどこかしら気持ちが落ち着かないです。




照明もグッ・・・と、控えめですね。
実は、こう言う「仄(ほの)かな暗さ」は、人の緊張感を解いて、リラックスして食事が出来る重要な要素だと言う学者もいます。

確かに、ビジネスホテルへ泊まりますと、室内の照明は煌々と明るい白色蛍光灯ですが、「寛ぎ」が優先される高級ホテルやリゾートホテルへ泊まりますと、いずれの部屋も薄明かりの「トワイライト」な照明に統一されていますし、一流と言われるレストランのディナータイムなども、一様に照明が落とされています。

奥の一帯が厨房で、小窓を通して蕎麦が出て来ます。
三角巾をかぶった給仕姿の女性達は、いかにも「浅草」と言う気立てで、明るく元気良く、きびきびと配膳してくれます。

「菊正宗」の「樽酒」が樽に入ったまま右奥に鎮座しています。




壁に並んだ「お品書き」です。さすがの達筆ですね。
「ざるそば」と、「かけそば」を所望させて頂きました。





注文から五分ほどで、小粋なお盆に載って登場した「ざるそば」です。
蕎麦猪口や徳利、薬味皿と・・・・一揃いになった物を使っています。

「ざる」とは言え、刻み海苔はかかっていません。


ちなみに・・・・先に薬味類について述べますと、ワサビは粉ワサビをメインに多少の本生ワサビを混ぜた感じの物か、もしくは、ほぼそれと同様と感じられる物でした。
ネギは新鮮で歯触りが良く美味しいものでしたが、大分大人しめの香りでしたので、香りが強くなり過ぎないように水にさらした「さらしネギ」のように感じられました。

そして、何よりこちらの並木藪の「そばつゆ」は、グルメ漫画の「美味しんぼ」でも紹介されるほどの、江戸風の絶品ツユとしてつとに有名です。
その貴重なツユが徳利に入ってたっぷりと提供されるのは嬉しいですね。





さて、まずは「蕎麦」ですが・・・・写真の通り、蕎麦は「裏返したザル」の裏面に盛られています。
この方が良く水気が切れるから・・・・と言う事らしいですが、そのため見た目よりも蕎麦のボリュームは少なめです。

まずは、ツユに浸けずに蕎麦だけを食べてみますと・・・・・

うーん、何とも・・・・蕎麦が「軽い」ですね。


口当たりに「スルスルスルゥ・・・・」と軽くすすれる「軽やかさ」があり、歯応えに「フワリ・・・」とする「柔らかさ」があります。
そのため、ほとんど歯を使わずに、「ノド」で直接味わうような食べ方が可能です。

ただ、蕎麦のカチッとした「エッジ」が立たず、若干、蕎麦の輪郭が弱々しいと言いますか・・・・随分と「丸く」「大人しく」感じられます。

この「フワッ・・・」とするたおやかな食感を、どう評価するかは人それぞれだと思いますが・・・・妙に「フワフワ」とした食味があり「チープ」と言う人もいるかも知れませんし、口当たりが実に「軽やか」で「食べ易い」と言う人もいるかと思います。

そして・・・・蕎麦の香りも、蕎麦の味も、かなり「アッサリ・・・」として、極めて「ライト」な味わいです。
特に後口が「サラッ」として、蕎麦のアクがないと言いますか・・・・蕎麦の風味が控えめに感じられます。





次に、いよいよ「ツユ」を味わってみます。

これが「日本一の蕎麦ツユ」と評する人までいる並木藪の「そばつゆ」です。
なるほど・・・・いかにも、黒々としています。

こちらの「かえし」は、火入れ(加熱)していない醤油を土中に埋めた「甕」(かめ)に入れて長期間寝かしたもので、「生かえし」と呼ばれているそうです。

まずは、ツユだけを少し舐めてみました・・・・・。


うーん・・・・・なんとも、素晴らしい美味しさです。

実に、「気骨」と「気魄」(きはく)にあふれ、素晴らしくパンチのある力強い味わいのツユです。


まず、香りが「重々しく」漂い、味わいには並々ならぬ「力感」が漲っていて、底知れぬ「深み」と「コク」があります。
「若さ」や「軽さ」、「華やかさ」や「キレ」は少ないのですが・・・・軽薄に浮ついた感じが全くなく、重心がドッシリとして低く・・・・随分と濃口の「ヘヴィ」な「力強い旨味」を持つツユです。

特に、何より「かえし」・・・・つまり「醤油」の「旨味」が素晴らしく「豊富」で、驚くほどに「濃厚」です。
イメージとしては、香りが尖らず、口当たりがまろやかで、アミノ酸が極めて豊富な「たまり醤油」を連想する深い深い・・・・芳醇な旨味です。

そして、その無類の潤沢な旨味ゆえ、ツユが舌に乗ってすぐに味がやって来るのではなく、4〜5秒ほどのタイムラグを置いてから、やや遅れて「本来の濃口の旨味」が怒涛の勢いで押し寄せて来ます。
味わいに「押し出し感」「力強さ」があり、他店のツユが「普通の醤油」を連想する味だとすれば・・・・やはりこちらは「たまり醤油」レベルの素晴らしい「コク」と「旨味」です。

濃い色から判るとおり、濃口醤油がたっぷりと使われているのですが、いわゆる醤油臭さは絶無で、塩分もちょっとだけしょっぱいかなと感じるギリギリ手前を完璧に見切っています。そして、化学調味料感や強い塩気などの、舌に残る嫌味なクドさも全くなく、後口は味離れが非常に良くて、実にサッパリとしています。

また、「ダシ」についても、カツオ出汁がしっかりと効いて素晴らしい美味しさなのですが、それ以上に感心してしまうのは、醤油とカツオ風味の「一体感」「まとまり感」が完璧で、「醤油」と「節類」が一切分離せずに「シームレス」に溶け込み合っていて、信じ難いほどに一体化している事です。

いやはや・・・・和風ダシの凄さを再認識させられます。


そして、さらに、気付いた事は・・・・・確かに濃厚で「旨味が潤沢」なのですが、その反面、その旨味が極めて見事な「シンプルさ」を維持している事です。
実際、「醤油」と「枯れ節」以外、一切使っていないとも思える・・・・・「シンプルな味」、「簡明な味」です。

何と言うか、多数の素材をあれこれ重ねて、その様々な七色の旨味が複雑に絡み合い、相乗し合って感じられる・・・・と言うタイプではなく、「味に深み」や「コシの強さ」はあるのですが、良い意味で、「味の幅が狭い」「キャラクターが簡潔」な印象です。
それでいて、その「限られた範囲」の中で、やたらと「複雑玄妙」な旨味が潜んでいる、息づいている・・・・と感じられるタイプです。





さて、いよいよ蕎麦をツユに浸けて食べてみます。

この味の濃いツユを、蕎麦の下の先っちょだけに「ちょい」と浸して、一気に「ズルズルッ」と豪快にすすり込み、あまり噛まずに、「ノド」で味わうのが・・・・いわゆる「江戸っ子の蕎麦喰い」の流儀だ・・・・などと言われたりします。

そして、こちらの並木藪蕎麦は、まさにその「理想像」を叶えてくれるお店です。
さっそく私も、蕎麦の下の三分の一位をツユに浸けて、ズルズルと、すすってみました。

そうしますと・・・・・まず、ツユに浸っていない蕎麦の上部分は、「サササ・・・」「フワワワ・・・」と蕎麦単体の「軽くて薄い」穀物の味わいがやって来ます。
そして、その後を追いかけるように・・・・下段のツユの「ギュギュッ」と重くて濃い味わいが続けて口に入り、後口を「ドッシリとした旨味」で、しっかりと「重く」・・・力強く引き締めてくれます。
この両者が時間差で描く、「軽」と「重」・・・・「淡」と「濃」・・・・の味の「コントラストの妙味」、「味の変化の楽しさ」が、こちらの蕎麦の持つ醍醐味の一つと言えるでしょう。

もし、蕎麦の全体をたっぷりとツユに頭まで浸けてしまいますと、当然ですが、蕎麦の味が埋もれてしまい、この濃口のツユの味一色になってしまいますので、注意が必要です。

ただ、少々気になったのは、素晴らしいツユの力強さや旨味の豊かさに比較しますと・・・・どうしてもやや蕎麦の食味が弱い印象を受けてしまいます。
と言うよりも・・・・むしろ、蕎麦の味の薄さを、「濃いツユ」でカバーしている印象とも受け取れ・・・・そのためにツユがこれほどに「発達」して来た・・・・と言う印象でもあります。
要は、「ツユの味」で食べさせるタイプの蕎麦なのかも知れません。

ちなみに、こちらのツユを、東京一の「辛口」と評する声もあるようですが、「辛い」と言うのとは全く違う気がします。
なぜなら、とがった強い塩気は感じられず、決して「ピリッ」とは来ないですし、濃い風味の底辺の方に・・・・ほんのりとした微細な「甘味」が横たわっていて、決して「辛口一辺倒」ではない味です。実際、「甕」に醤油を仕込む際には少量の「砂糖」を足して寝かせているようです。

しょっぱいとか、辛いと言う印象ではなく、長期間に渡り寝かされてすっかり角が取れ、時間をかけて「熟成」させた、「深遠なるまろみと熟成感」「柔らかで力強いコク」を持つ味わい・・・・それでいて、旨味がダブつかず、妙な隠し味に頼らず・・・・言うなれば、懐の深い「侠気」を持つ「大人の硬派な男」をイメージするツユですね。

「熟成」と言う時間と手間を通し、促成醸造感や添加物感が微塵もない、おそろしく味がドッシリと円熟した「力強い旨味」を見事に生み出している印象です。





「そば湯」は、急須で登場しました。
見た目からして、あっさり、サラリ・・・としていて、まさしく蕎麦の「茹で湯」その物の味わいです。





上の写真は、蕎麦ツユなしで「湯」だけを飲んでいますが、とてもあっさりとして、蕎麦特有の旨味や香りは控えめです。
このままですと、やや物足りなく感じますので、やはり、ツユと混ぜて頂くのがベターでしょう。

あっさりとした湯が、濃厚なツユをほど良く溶き延ばしてくれますので、適度に薄められた美味しい蕎麦ツユが味わえます。





さて、続けて、こちらは温かな蕎麦の中でも、基本となる「ざるそば」です。
別皿でネギとワサビが添えられます。

ちなみに、こちらの並木やぶそばでは、冷たい「ざる蕎麦」のツユには「本節」(カツオ)を使い、こちらの温かい「かけ蕎麦」の汁では「サバ節」を使って、ダシを取っているそうです。

最初に汁を少しすすってみますと・・・・・こちらの汁の「味の構成」も、香りと旨味がとても芳醇ですが、また同時に、極めて「シンプル」で「簡明」なタイプです。

そのため、「味は濃い」のですが・・・・めくるめく様々な旨味が順番に顔をのぞかせるようなシークエンスのある、後を引くディープな味わいではないですね。
決してクドくなく、長引かず、歯切れの良いさっぱりとした、シンプルで味離れの良い、実に「簡潔な美味しさ」です。

ツユは醤油の色が濃く、しっかりと濃口の風味があるのですが・・・・しかし、「醤油」が直接「舌に触らない」事に驚かされます。
これだけ醤油の旨味が濃厚なのに、「醤油臭さ」がまったく鼻に付かないのは大したものです。長い時間、甕の中で眠らされて、醤油の旨味だけが深く熟成され、逆に、その過程で香りはほとんど飛んだ(抜け去った)印象です。

既に「醤油」ではなく、「ツユの味」に変身しているのですね。要は、元の「素材」や「醤油」の味が舌に触る事が一切無く、すっかり一つの「ツユ」としての姿に成り切っています。
そして、「醤油」と「ダシ」は、先の「冷たいツユ」の時と同様に完璧に一体化しており、やはり「パーフェクト・シームレス」・・・・。

すべての食材や調味料は、その姿の内側に内包され、同化して、外側からは材料の姿が一切見えなくなっています。
「人の技」だけでなく、まさに、寝かせる事による「時間の技」が醸し出した深い深い味わいと言えるでしょう。





こうして見ますと・・・・本当に汁と蕎麦だけですね。
ある意味・・・・まさに「かけそば」の「原形」「起源」のような・・・・スタイルです。

さて、いよいよ蕎麦を食べ始めますと・・・・・
温かい汁に浸った事で、先の冷たい蕎麦よりも一層、歯応えが軟らかめに感じられます。
やはり、蕎麦の食感が妙に「フワフワ」として感じられ、蕎麦のエッジや風味が随分と控えめと感じられ・・・・もう少し、「エッジ」や「歯応え」、「主張」があっても良いような気もしますが、やはり「ノド」で味わう蕎麦を目指しているのでしょうか。

ただ、やはり、素晴らしいツユの力強さや旨味の豊かさに比較しますと、どうしてもやや蕎麦が弱い印象であり、どちらかと言えば・・・・先の「ざる」同様に、「蕎麦」よりも「ツユ」が主役を張っている印象を受けてしまいます。

また、味はきっちりと「濃い味」なのですが、極めてあっさりとした後口であり、歯応えが軟らかいことから、歯の弱い年配者の方にも大いに喜ばれそうですし、また、フワリとして腹に溜まらず(消化が良く)、蕎麦の量も控えめであることから・・・・どこかしら、ご婦人客を意識したような配慮が見え隠れする気もします。




さて、食べ終えての感想ですが・・・・・・

「蕎麦」そのものに関しては、特段、「この店ならでは」・・・・と言う印象的な部分は感じられませんでしたが、蕎麦「ツユ」に関しては、さすがに世間で話題になるだけの「傑出」したものを強く感じさせられました。
この「力強く&シンプル」で、一切の「揺るぎのない」・・・・「限りなく濃口のツユ」は、いわば関東の蕎麦文化の「象徴」であり、「伝統」であり、まさしく「江戸の華」だと思います。

そして、その「ツユ」の最大の美点は、多数の素材の掛け合わせのような「複雑さ」は、さほど感じられないのですが・・・・「醤油」と「節」と「ミリン」・・・・が絶妙な「黄金バランス」で組み合わされていることです。むしろ、登場人物を敢えてシンプルに制限し、ぎりぎりに絞って、一つ一つの素材のウェイトを高め、徹底して「一つ一つの素材」を、見事に「生かしている」印象です。

おそらくは、今のように流通経路が発達し、日本全国から贅沢な素材がいくらでも集まる・・・・特別な産地限定の高級食材などが何でも手に入る・・・・と言う、便利な時代ではなかった頃に、完成されたレシピなのではないでしょうか。
手に入る限られた食材や、素朴な調理設備や、様々な制約の中で・・・・創り上げられた「最善の味」と言うイメージを受けます。

ただ、実際に食べ終わってみますと・・・・もともとの蕎麦の量が少なめと言うこともありますが、それらの見た目のボリューム感以上に、食後の腹心地が極めて「あっさり」として「軽い」事に気付きます。全く胃もたれせず、舌も、ノドも、胃も・・・・むしろ「後味が軽すぎる」と感じる位に・・・・不思議なスッキリ感が漂います。

なんと申しますか・・・・蕎麦粉の成分を摂取した感覚が少々希薄なイメージで、もし、続けて蕎麦を追加して、四〜五枚食べたとしても、「体積的」にはお腹が膨れそうですが、おそらくは・・・・決してドッシリとは腹に堪えず、このフワフワとするやや物足りなさを感じる腹心地は変わらないと思います。

こちらの蕎麦は「手打ち」ではなく、「手ごね&機械打ち」だそうですが、打ち方による違いと言うよりも・・・・・味や香り、食感や腹心地から判断すれば・・・・少なくとも私には、かなり小麦粉の比率が高い蕎麦のように感じられたのですが、後日、インターネットで検索しますと、こちらの蕎麦を「十割蕎麦」「つなぎなし」などと紹介しているサイトがあって、少なからず驚いてしまいました。
しかし、念のため、大きな本屋さんの蕎麦本コーナーでこちらの「並木藪」を紹介している書籍を探して五冊ほど読んだのですが、「十割蕎麦」と紹介している書籍は皆無でした。
果たして実際のところはどうなのか・・・・は、未確認ですが、少なくとも今回食べて、「蕎麦マニア」が五感を研ぎ澄まして味わう蕎麦・・・・と言うタイプとは、全く別の価値観で作られている蕎麦と言う印象を受けました。

実際、江戸時代の蕎麦は決して「求道者」的な食べ物としてではなく、屋台で食べるチープなファーストフードとして庶民の間に広まったそうですので、老舗として、今もその「精神」を守ろうとすれば、決して一部の蕎麦マニアやグルメ評論家向けに無闇に気難しい味や高級路線に走るのではなく、肩肘を張らずにあくまで気軽に味わえる「下町の味」「庶民の日常食」と言うポジショニングを堅持し、生産性やコスト等にも配慮し、「大衆」「一般人」に向けられた蕎麦として受け継がれるべきなのでしょう。

ちなみに、同じ「並木藪」でも栃木県足利市にある「並木藪蕎麦・堀江店」(栃木県足利市梁田町535)は、「十割蕎麦」であることを自身のHPで堂々と宣言しています。
足利薮のHPによりますと、東京の浅草雷門の並木藪蕎麦で六年間修行をし、昭和54年に足利に開店したそうです。実は、私はラーメン食べ歩きでよく栃木県佐野市近辺へ行くのですが、その際に二度ほど「足利並木藪蕎麦」へ伺って「もり」を頂いた事があります。

結論から申し上げますと、正直に言って、二度とも、まさしく想像以上、過去食べたあらゆる蕎麦の中で、間違いなく「五本の指に入る」筆舌に尽くせない素晴らしいお蕎麦でした。蕎麦も確かに十割でしたし、その無類の香り、超絶の味、類例がないほどの舌触り、コシ、エッジ・・・・に、背筋が凍るほどの幸福体験でした。しかも価格は僅かに500円なのですから・・・・事実上、これぞ「日本一の蕎麦」ではなかろうか・・・・と思えてなりません。
もし、「真の蕎麦好き」を自認する方であれば・・・・ありとあらゆる万難を排して、是非とも一度、「足利並木薮蕎麦」の超絶のお蕎麦を食べて欲しいと・・・・強く、強く、強く願ってやみません。
(なお、もし遠路はるばる足利に行く場合、「いちい」(栃木県足利市相生町385)の蕎麦、「あらき」(栃木県足利市田中町530)のうどん、も10年に一度出会えるかどうかと言うレベルで非常に美味しい手打ち麺ですので、ぜひぜひご訪問を強くお薦めさせて頂きます。本当に北関東は「麺」のレベルが高いです。ただし、いずれのお店も店内禁煙でないのが非常に残念でなりません。)

「足利・並木薮蕎麦堀江店」への二度目の際は、私が一目置くグルメの知人を同行しましたが、その方は今まで蕎麦を軽視していたようなのですが、「なるほど、真に美味しい蕎麦は実在するんだね。やっと、本当に美味しいと思える素晴らしい蕎麦と出会えた。」と甚く感激しておりました。
そう言う意味では、足利並木やぶそば堀江店のご主人が修行していた昭和54年頃の「浅草・並木薮蕎麦」も、その当時は、間違いなく日本列島屈指の絶品蕎麦を出していたものと推察ができるかと思います。


ちなみに、こちらの「並木藪」を、 名著「ソバ屋で憩う」の「筆頭ページ」で紹介している著者の故・杉浦氏は、こちらのお店を「江戸前ソバ屋の原点」と賞賛すると同時に、「名だたる観光地」・・・・とも表現しています。
そして、「腹を満たすのではなく、過ごす時を満たすお店・・・・である」とも・・・・。

確かに・・・・日本の伝統食とも言える蕎麦屋さんともなれば、その魅力は決して「味」だけではなく、お店の「佇まいや雰囲気も味のうち」だとも言えます。
訪れてみると判りますが、「浅草寺」や「雷門」や「仲見世」一帯の独特な雰囲気は、まさしく「江戸時代」の名残りを残す界隈です。そして、三社祭、羽子板市、ほおずき市・・・・など江戸以来の伝統行事もあって、マスコミでも盛んに「浅草」が江戸の由緒を伝える街として紹介されています。

その「浅草」の持つ独特な雰囲気と歴史的背景の中で、藪御三家という由緒正しき「系譜図」付きの老舗の味を、懐かしき年代調の空間で食べられる「楽しさ」「ワクワク感」は、何物にも代えがたいでしょう。

実際、連綿と歴史を重ねて来たこの「舞台装置」のような建物の中で、悠久の長い時の隔たりに想いを馳せながら過ごす「時間」には「格別」な充実感があります。
おそらくは、並木藪を訪れる客にとって、こちらのお店の持つ独特な「雰囲気」や「歴史的背景」こそが、最高の「薬味」になっているのは、まず間違いないでしょう。

こればかりは、優秀な新店がどれほど努力し、才能ある蕎麦職人がどうあがいても・・・・到底かなわない、永遠に追い付けない、「並木藪」不動の人気の「隠し味」だと思います。



(すべて完食)











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