01ch グルメ食べ歩き
鞍馬
(東京都 杉並区)

店名 手打蕎麦 鞍馬(くらま)
住所等 東京都杉並区西荻南3-10-1 【地図表示】
禁煙 タバコ完全禁煙
訪問日 2006年12月下旬 箱盛そば 940円
            鴨南そば 1890円




〜西荻窪鞍馬〜



2006年12月下旬 箱盛そば 940円 + 鴨南そば 1890円

今回は、都内でも屈指の「美味しいそば店」との呼び声が高い、巷で評判の「鞍馬」(杉並区・西荻窪駅)さんを訪問してみました。

蕎麦通の間では「西荻に鞍馬あり」として知られ、実際に数多くの「蕎麦ガイド本」への掲載を始め、インターネットでも「日本蕎麦系サイト」「グルメ系サイト」では、こちらの「蕎麦」について「思わず唸ってしまう隙のない蕎麦」、「他の追従を許さぬ蕎麦」等の高い評価をしているサイトが少なくありません。




お店はJR中央線の西荻窪駅の南口から徒歩1分ほどの好立地にあります。
マイカー訪問の場合には、お店の周囲は一方通行や進入禁止の道路が多く、またコインパーキングは少な目ですので、時間に余裕を持って訪問した方が良いと思います。




こちらの「鞍馬」のご主人である吹田氏は、山梨県北杜市長坂町にある有名店「翁」(おきな)に於いて、現代蕎麦界の旗手の一人である「高橋邦弘氏」に師事して修行された輝かしいキャリアを持つ方とのことです。

さらに、世の蕎麦好きのバイブルの一つでもある 名著「ソバ屋で憩う」(杉浦日向子とソ連編著)において、巻頭を飾る「特選五店」の一つとして紹介されているお蕎麦屋さんとしても、つとに有名なお店です。
ちなみに特選五店とは、 浅草「並木藪蕎麦」、日本橋「室町砂場」、西荻窪「鞍馬」、高田馬場「傘亭」、山形県の旅籠町「萬盛庵」・・・・の五つの名店です。




こちらは石臼碾き(いしうすびき)による自家製粉のお店で、客席すぐ横に大きな電動石臼が置かれています。
石臼には、『十一月十一日より新蕎麦となりました 大変遅くなりましたが厳選有機栽培契約蕎麦です 種子名「常陸秋そば」』・・・・と書かれた紙面が貼られていました。

奥の一帯が厨房で、小窓を通して少しだけ中の様子が伺えます。
この日は、大晦日も近い12月下旬でしたので、「年越そば」の貼り紙や、年末年始の休業案内も見えます。

雰囲気的には最近のデザイナーズ系の凝ったインテリアや間接照明を多用した、ダイニングバーのような雰囲気の蕎麦屋さんとは異なり、西荻窪の街並みに溶け込んだ、あまり気取らないトラッドな蕎麦屋さん・・・・と言う造作に感じられます。

名著「蕎麦屋で憩う」の厳選五店に選ばれている事から、もっと照明が暗くて隠れ家的な、極めてプライベート色の強い空間を想像していたのですが・・・・・実際には、店内はさほど広くなく、座った席から店内の全景が隅々まで見渡せてしまうほどの・・・・開放感のある明るい店内です。

また、接客も・・・・そこはかとなく、「まったり」「ゆったり」として、店内には「のんびり」「おっとり」とした空気が流れているお店かと思いましたが、実際の接客は丁寧ながらも、とにかく機敏です。
席に着いてからのオーダー取りも早く、注文から蕎麦の提供までの時間も非常にスピーディです。
ただ、スピーディなのは良いのですが、蕎麦と同時に伝票や蕎麦湯までも一緒にパッパとテーブルへ置いていってしまうのは・・・・ややセカセカしているようにも感じられ、少々気になりました。




お蕎麦のメニュー表も、プラケースに入った一枚もので、気取りのないシンプルな物です。
「箱盛りそば」と「鴨南そば」を注文しました。




メニューの裏面は日本酒の銘柄紹介になっています。
「四季桜」や「菊姫」は、私も大好きなお酒です。





さて、注文をしてから3分ほどで登場した「箱盛そぱ」です。
底にはスノコが敷かれていますし、フタがありますので蕎麦の乾燥も多少防げて良いと思います。

まずは、蕎麦の「香り」ですが・・・・フタを取ると同時に箱の中から湧き立つとか、鼻を覆い尽すとか・・・・そのような「あからさま」な強い香りではないですね。
どちらかと言えば、やや控えめ気味な、ほのかな、奥ゆかしい香りで・・・・言うなれば、何とも「可憐な」香りのボリュームです。

しかし、この「香り」ですが・・・・いかにも「蕎麦」然とした茶色い香りではなく・・・・普段頂く、どこのお店の蕎麦とも違う「神秘的」な香りです。
何か別な物の香りに感じられるな・・・・と暫し考えた後に・・・・何を連想する香りなのか判りました。

それは、蕎麦と言うよりも・・・・まるで、「青草の息吹」を連想する緑色の香りです。

つまり、収穫された「蕎麦の実」と言うよりも・・・・・むしろ、その前段階、「蕎麦が育つ畑(フィールド)」を連想させる「緑の匂い」のイメージです。
理由は良く判りませんが、うっすらと緑色がかった色からも判るように、新鮮な「新そば」ゆえのフレッシュな植物性の香りが、「青草」のフレイバーを連想させるのかも知れません。
さらに、蕎麦の風味が飛ばない石臼挽きに加え、こげ茶色の蕎麦「殻」を一切混入させない念入りな製粉手法の賜物で、その青草のフレイバーが埋もれず、ピュアに生きているのでしょう。

青々とした茎と葉に可憐な白い花がいっぱいに咲いた・・・・そよ風に揺れる蕎麦畑に立った時に鼻腔に感じる・・・・
あの大草原の・・・・野草の匂い、野原の匂い、緑の葉の匂い・・・・心身の汚れを洗い流し、解毒してくれるかのような・・・・素晴らしく胸のすく、「清清しい」香りです。

「こう言う、青草の息吹(香り)を放つ蕎麦もあるんだなあ・・・・・」と、新たな発見に胸が高鳴りました。





ところで、この「蕎麦」の美しい「姿形」「佇まい」を見ただけで、「ピンッ」と来る方は、なかなかの「蕎麦通」でしょう。

蕎麦殻の黒い星が一切入らないきれいな並粉、「ライトプラウン」の色合い、そしてとにかくストレートな繋がり感と、蕎麦密度を感じさせる量感・・・・そう、ズバリ、「足利一茶庵」の流れを汲む蕎麦のフォームですね。
実は、こちらの鞍馬のご主人が師事した「高橋邦弘氏」は、足利一茶庵の開祖である「故・片倉康雄氏」の愛弟子のお一人だと言うことです。
つまり、「系譜」を遡りますと、こちらのお店は「足利一茶庵」系のお店と言うことになります。

いざ、箸で蕎麦を掴み上げてみますと・・・・蕎麦のサイズが相当に「長い」事が判ります。一茶庵系の中でも最長の部類に入ると思います。
おそらく、丸いザルではなく、長方形の箱に盛っているのは、その長い蕎麦を上手に納めるためなのでしょう。

食べ始めると気付きますが、この「長さ」ゆえ、通常の「啜る」(すする)と言うよりも、いわゆる上級の蕎麦通が好んで使う表現である・・・・「手繰る」(たぐる)と言う食べ方になります。
つまり、「一すすり」で蕎麦がプッツリと終わるのではなく、何回も繰り返しすすって蕎麦の「長さを楽しむ」と言う食べ方になります。
ただ、かなり長めの蕎麦ですし、蕎麦同士がややくっつき易いようにも感じられましたので、上手に手繰るにはそれなりの「技術」が必要かも知れません。





さて、まずは、ツユに浸けずに、蕎麦をそのまま一口食べてみました・・・・・。

うーん・・・・きっちりと冷水締めされて、素晴らしくヒンヤリとした心地良い冷たさのある口当たりです。
そして、舌触りが「ツルツル」「スベスベ」として非常に滑らか、どこにも「ザラザラ」した感じや「デコボコ」した感じが絶無です。

特に、写真で見ても良く判ると思いますが、蕎麦の「エッジ」が非常に美しく立ち揃っていて、素晴らしく「正確&スクエア」、そして「ソリッド」・・・・と言うすすり心地です。
この「エッジ感」は、他の蕎麦ではあまり経験した事がない程に、鋭く、四角く、明瞭な物で、すする際にそのキレのあるラインのトレース感が口中で「光彩」を放つ感じです。

このすすり心地は・・・・まるで、新品のスーツのビシッと折り目が付いたズボンに足を通すような・・・・何ともいえない「スラッ」とする快感を生みます。
そして長さによる独特な「量感」「重さ」が舌に乗り、全体になかなか「高級感」のあるすすり心地です。

そして、軽く噛んでみますと・・・・いかにも十割蕎麦らしい「密」な食味と、「力感」&「量感」がビンビンと漲って伝わって来ます。
それでいて、決して練り固めてしまったようなカチカチに硬くなり過ぎた感じがなく、「せいろ蕎麦」らしい「柔軟さ」や「繊細さ」、「たおやかさ」も併せ備えています。

実は、私にとっては、「足利一茶庵」系の蕎麦と言いますと、緊縛気味でややカチカチに硬過ぎるとか、ずっしりとヘヴィ過ぎるように感じる事が少なくないのですが、こちらの蕎麦は、絶妙な「たおやか感」「中量級感」を上手に織り込んでいる気がします。


そして、いよいよ蕎麦の「味」ですが・・・・・いやはや、なんと申しますか・・・・・
とにかく「野暮ったさ」や「俗っぽさ」が絶無で、なんとも・・・・気高く、優美・・・・清らかでスッキリとした、「雅やかなお味」です。

いかにも、「蕎麦です」と言う感じの「蕎麦殻」や「甘皮」の茶色っぽい味ではなく、そうかと言って「更科粉」のようなデンプン質オンリーの無垢な純白の味でもありません。
いわゆる蕎麦の「甘味」や「旨味」で美味しいと感じさせるのではなく、まず一度、「蕎麦」の姿を削ぎ落とした後、再度「味」を構成したかのような・・・・うっすらと「緑の風味」が漂う、楚々として、非常に高尚な味・・・・と言う印象です。
そう言う意味では、私のような俗人&凡人には真価がなかなか判りづらい面もあるような気もしますが、少し長く噛み続けていますと、蕎麦のデンプンが糖化して、次第にゆっくりと自然な甘味が湧き出て来ます。

ただ、時間が経ちますと、蕎麦の表面が乾き始め、次第に「ネトッ、ピトッ」とする粘性が出て来て、蕎麦同士がお互いにくっつき易く、手繰りづらくなってしまいますので、極めて当然のことですが、早めに食べ切るのがより美味しく頂くコツでしょう。
また、時季により各産地の玄蕎麦を使い分ける事があるようですので、訪問時期によっては蕎麦の風味が変わっている可能性があります。





ところで、絶品の蕎麦を賛美する表現の一つとして「腰が立つ」と言う言葉があるそうです。
これは、蕎麦の角が小気味良くピンッと立って、蕎麦の動きが決して団子にならず、一本一本口中でしっかりと解像し、それでいて・・・・口中で蕎麦をしなやかに躍らせるに連れ、噛まずとも自ずからフッツリと歯切れ良く切れる蕎麦を指すようです。

今回、まさしくこちらのお蕎麦が、この「腰が立つ」と言う表現に該当すると思いました。


また、蕎麦つゆは、口の中で「フワッ・・・」と膨らむ、柔らかな味・・・・非常に奥ゆかしくデリケートなツユです。
やたらと、「ビンビン」に鰹節や醤油が強く香る、「グイグイ」と鼻に押し寄せる・・・・そう言うツユとは完全に別路線ですね。
旨味自体は、非常に慎ましくて穏やか、複雑で奥深い風味を背後に「待機」させている感じで、ダシの風味が上手に「閉じ込められている」「抑制されている」・・・・という印象です。

そして、「定番」の醤油とミリン、鰹節やサバ節のダシだけでは出せないような・・・・二つ、三つの隠し味があるように感じられる奥深いツユの味です。
インターネットを調べた限りでは、椎茸やワインビネガーなどを使っているような記述も見受けられましたが、とにかく有りがちな「枯れ節」の味だけで構成された単純なツユの味ではないですね。

そして、蕎麦ツユにありがちな「甘味」が一切ないのも特徴です。
どうやら、蕎麦も、ツユも・・・・・意図的に甘味を控えた、大人の味わいを目指している印象です。

言うなれば、甘いミルクチョコレートではなく、極めて大人向けのブラックビターチョコレートの世界・・・・。
若者が好む甘くてフルーティなカクテルやチューハイの世界ではなく、酒を知り尽くした大人が最後にたどり着く・・・シングルモルトのスコッチウィスキーの「エクスクルーシヴな世界」・・・・でしょうか。
食べ手にも、それだけの「素養」や「キャリア」が求められるお蕎麦と言う気がします。

ちなみに、今まで私は、蕎麦ツユと言いますと、かえしやカツオがしっかりと香るような、豊かな「素材感」にあふれるツユが上質だと思って来ました。
しかし、西洋の昔の格言に、「雄弁は銀、沈黙は金」と言う言葉があるように、「大声で主張する事」が必ずしもベストではない事もあります。

実際、こちらのツユは、先の「青草の息吹」を連想する蕎麦の素晴らしくもデリケートな風味を埋もれさせないように・・・・
ツユの香りを適度に飛ばし、ギリギリの必要最小限度にまで見事にツユの風味をコントロールしている、上手に抑制している・・・・と言う印象を受けます。
美味しい蕎麦であればあるほど、ツユや薬味は、あくまで「主役」の邪魔をしない「名脇役」として、時には「沈黙は金」に徹する事も必要なのだと思わせられます。





山葵(わさび)は、本わさびを上手に卸した物ですね。
少し食べてみますと「ツーン・・・」と来る化学的な刺激がなく、爽やかな野菜や深山に自生する山菜のような・・・・とても鮮烈な風味があります。
鋭角的な山葵の辛味とともに、鮮烈な「緑の野菜」の清清しい香りに、鼻腔が洗われて、「スーーーッ」と、リフレッシュする印象です。

大根は辛味がほとんど感じられず、優しい味わいで、舌が「サッパリ」とするほど良い水っぽさが感じられます。
どうやら辛味大根ではなく、普通の大根オロシのようです。

ネギは意図的に青みを混ぜたようですが、極細に切った後に、丁寧にほぐされていました。





桶に入れられて登場する蕎麦湯です。
そのまま飲んでみますと・・・・最近流行のトロリとした濃密な「ポタージュタイプ」の蕎麦湯とは異なり、あくまでナチュラルな蕎麦湯です。

トローンとして、まったりとした口当たりは感じますが、旨味や甘味はさほど強くはありません。
迎合的な甘味や、あざとく旨味を強調したような面が一切なく、どこまでも「すっきり」とした乳白色の柔らかな液体と言う印象です。





さて、続けて、こちらは温かな蕎麦の中でも、季節限定となる「鴨南蕎麦」です。
「鍋焼きうどん」などの超熱々メニューならともかく、温かい蕎麦でレンゲが付くのは珍しいと思いましたが、使ってみますととても便利で、嬉しい配慮です。

蕎麦つゆを一口飲んでみますと・・・・・口の中で「フワッ・・・」と膨らむ柔らかな味が、はにかむように顔を覗かせる・・・・非常にデリケートで端整なツユです。
醤油の風味やミリンの甘味が強く主張したり、カツオ節の香りが明るく華やかに舞い上がるとか、鴨の肉汁ダシ等が力強く押し寄せるとか・・・・の「判りやすい味」タイプではないようです。

実にストイックな旨味の出し方であり、非常に上品で奥ゆかしく、透明感のある澄んだ味わいです。
客にこびるような味付けや、ウケ狙いのあざとい部分がまったく感じられず、実に「通好み」と言うイメージを受ける仕上がりです。

この辺りの、決して浮かれたり、はしゃいだりしない・・・・まるで「大人の分別」「克己的抑制」が効いたような味のイメージは、先の「箱盛りそば」の冷たいツユと、「全く同じ印象」を受けます。
と言うことは、この路線が、まさしくこちらのお店の「目指している味」なのでしょう。

蕎麦のツユやラーメンのスープは、何のダシが使われているか、素材がすぐに判ってしまうようでは、まだまだ未熟だと言いますが、
実際、こちらのダシは実に渾然一体感があり、簡単には正体の判らない、単純に「何のダシ」とは言えない・・・・「簡単ではない」「難易度の高い」味です。

日本的な「陰翳礼賛」(いんえいらいさん)の「美学」が感じられるツユとも言えますが、一方で、どこかしら食べ手を少々突き放したような、冷ややかで・・・・冷徹な横顔も感じられ、言うなれば、「クール&ビューティ」・・・・なテイストと言うところでしょうか。

ただ、一方で、汁にやや舌を刺す尖った感じがあり、少々しょっぱめに感じられました。
ひょっとしたら、「醤油」以外に「天然塩」などを足しているようなイメージで・・・・醤油の味だけでなく、別途「塩」の味が加わっている鋭角的な印象を受けます。
この鋭角的で舌を刺す感じは・・・・何かの酸味のような物にも感じられました。
また、汁の温度がやや穏やかに感じられましたが・・・・これはおそらく、厚みのある鴨肉が五枚も乗ったため、多少温度が奪われたのだと思われます。





さて、「蕎麦」の食味ですが、先の「箱もりそば」のエッジの効いた冷たい蕎麦と比較しますと、温かい汁に浸っていると言う事もあるかと思いますが、エッジ感はすっかり影を潜め、口に入ると「フゥワリ・・・・」と軽く膨らみ、口当たりの「ホワン・・・・ッ」とする柔らかい食感に感じられます。

軽く噛めば、「フニ、フニ・・・・」として、そのまま「サラサラサラ・・・・サラリ・・・・」と微細な蕎麦粉の粒子感を伴って、舌の上を滑り流れるように溶けて行くイメージです。
もう少し硬めに茹でれば、エッジが残るとは思うのですが、むしろ、あまり噛まずとも、口の中で蕩けてゆくような・・・・この極めて上品な口解け感を狙っているようにも思えます。

おそらくお店としては、「冷」と「温」では、それぞれ目指している蕎麦の食味が異なるのかも知れません。
ただ、ゆっくり食べていますと、ラストの方ではさすがに蕎麦がノビ始めて来てしまいますので、当然ですが、早めに食べ切るのが美味しく頂くコツでしょう。

また、鴨ロース肉は厚みがあり、脂肪部分は「ポヨポヨ」と弾力に富み、赤身部分は「モゴモゴ」「モギュモギュ」とする筋肉質で、綿密な歯応えが十分に楽しめます。
味わい的にも、「ギュッッ・・・・」と凝縮された鴨の濃い旨味が堪能できました。

ただ、一般論として「鴨肉」は、淡白なニワトリの肉とは明らかに異なり、特有の野趣あふれる独特なクセの強い匂いがあります。
そのジビエ的なワイルドな匂いが好きな人は好きなのでしょうが、私には「泥臭さ」や「血合い肉の強い匂い」として感じられ、かなり野性味が強烈に感じられます。
こちらのお店の場合も、蕎麦やツユの上品な味わいからしますと、もう少し鴨肉の匂い消しをしても良いかと思います。

ネギは焼いた事による香ばしさもあってとても美味しかったです。
箸で掴んだ感じからして「プリップリ」としていて、歯を入れますと、「パリツ、シャクッ」、「パリッ、シャクッ」と割れるように砕け、そのクラックする歯応え、口の中で軽く破裂する感覚がとても楽しいです。
続いて、ネギの中から柔らかなトロミと甘味がトローリとほとばしり出て来て、得もいわれぬ美味しさが口中を覆い尽くします。
ホウレン草はシナシナとした歯触りで、カラフルな麩と一緒に、主に「彩り」としての役割を与えられているようでした。





蕎麦を半分ほど食べたところで、卓上に京都祇園の本家原了郭の「黒七味」がある事に気付きました。

試しに少量振り掛けてみましたところ、ツユに「勢い」と言うか、「パンチ」が加わり、味わいがピシッと引き締まって感じられるようになります。
また、鴨肉の独特な血合い肉の風味が多少影を潜め、食べ易くなりました。




さて、食べ終えての感想ですが・・・・・
こちらのお蕎麦は、おそらく私が今まで食べ歩いて来た「蕎麦」の中では・・・・最も「難易度の高い」クラスの蕎麦だと思います。

最初、数口食べた時点では、蕎麦もツユもやや大人しめの味かな・・・・と思ったのですが、半分を過ぎた辺りから、
うーん・・・・これは相当に手ごわい蕎麦だな・・・・と言う苦戦の予感を感じ・・・・さらに最後には、ちょっと「冷や汗」ものの難易度に感じられました。

長い蕎麦を上手に「手繰る」技術や、単純に「何のダシ」とは言えないツユの味など、こちらから頑張って「背伸び」してアプローチして行かないと、なかなか自身の持つ魅力の全容を気安くは披露してくれないイメージを受けました。

まるで食べ手側の実力を探るかのように・・・・蕎麦の真の姿が背後に「待機」している印象で、決して蕎麦の方から判りやすく切り込んで来てはくれません。
「蕎麦の味」、「汁の味」、「蕎麦湯」、「具や薬味」ともに・・・・どこにも「遊び」や、一切の「緩み」がなく、相当に「玄人好み」なお店だと思います。
食べた誰もが、即座に「うまい」と言う歓喜の感情を持てるフレンドリーな大衆向けの味ではなく・・・・判る人には判ると言う、真の蕎麦通に捧げられた、上級者向けの「シリアス」な蕎麦と言う印象です。

つまり、こちらのお蕎麦は、万人向けと言うよりも、「真の蕎麦職人」による「真の蕎麦通」への究極的メッセージと感じられるもので、やや他店とは「目指している物」が違うと感じます。
食べ進むに連れ、蕎麦の向こう側に、半端ではない位の「己に厳しい」蕎麦の求道者としての店主氏の人物像が浮かび上がって来ました。

もちろん、良質な蕎麦と端整なツユの組合せは、素人が気楽に食べても十分に美味しく、それなりの満足を得られるとは思いますが、
こちらの蕎麦の真の実力は、まだまだその遥かずっと上の世界に存在し、食べ手がその長い階段を昇って来るのを、息を潜めてじっと見守っている・・・・という気がします。


「美味しい蕎麦」を食べたと言うよりも・・・・・「凄い蕎麦」を食べさせられた・・・・・と言う感想です。

「魔性」的な凄みを感じるこちらの蕎麦・・・・・私の場合、あと5年位は人生経験と蕎麦修行を積んでから再チャレンジしてみたいお店です。



(すべて完食。)










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