01ch グルメ食べ歩き
近藤
(東京都 中央区)

店名 てんぷら 近藤(こんどう)
住所等 東京都中央区銀座5-5-13 坂口ビル9F 【地図表示】
禁煙 タバコ完全禁煙
訪問日 2005年11月中旬 菫(すみれ) 5250円 +さつまいも天
2006年8月下旬 椿(つばき) 7350円




〜てんぷら近藤 その1〜



2005年11月中旬 菫(すみれ) 5250円 + さつまいも天

今回は、都内でも稀代の「天ぷら」の名手と巷で評判の近藤文夫氏のお店、「てんぷら近藤」(中央区・銀座駅or有楽町駅)さんを訪問してみました。
店主の近藤氏は文人に人気のある「山の上ホテル」のご出身だそうで、特に美食家として知られていた作家の池波正太郎氏が近藤氏の天ぷらを特に「贔屓」(ひいき)にしていた話はつとに有名なようです。




銀座の中心地、「並木通り」と「みゆき通り」の交差する付近にお店はあります。
「並木通り」は、別名「ブランド通り」とも呼ばれているように、欧米の高級ブランドの日本本店が軒を連ねる超高級ショッピングストリートです。
道路は隅々まで清掃が行き届き、良く手入れの行き届いた街路樹が等間隔で緑を添え、瀟洒(しょうしゃ)で立派なビルが並び立っています。




近藤氏が独立し、銀座にお店を構えて10数年・・・・銀座で一度移転しているようですが、現在のお店は銀座の中心にそびえる立派なビルの9Fにあります。
店舗入口には、内側に隠れるようにして「看板」がありますので、見落とさないよう、通り過ぎに注意しましょう。




案内を見ると、どうやらワンフロア毎に一店舗が入居しているようですね。
「近藤」は9Fになります。




やや小型のエレベーターを降りるとすぐにノレンが出迎えてくれます。
エレベーターホールは狭めですが、何しろ地価日本一の「銀座」の中心にあるビルですので、ある意味当然の事でしょう。




オープンキッチンの厨房を囲むようにコの字型に客席がレイアウトされています。
白木のカウンターが見事な、瀟洒で粋な雰囲気が漂う、清潔で居心地の良い空間です。
広く明るい窓から眼下には銀座の街並が広がり、地上の喧騒から隔絶されたとても清々しい雰囲気です。




昼の12時を過ぎると続々とお客さんが集まってきました。私達(三人)を含め、ほとんどが予約客のようです。
ちなみに、「揚げ立て」を間髪入れずに食べる・・・ことが美味しい天ぷらの大原則ですから、こういった揚げ手と客の距離が「腕の長さ」になっている席配置は、まさに理想的と言えるでしょう。

美しい「銅製」の揚げ鍋が二つ並んでいます。温度伝達に飛び抜けて優れる「銅製の鍋」や「銅製のフライパン」は、プロの中でもトップクラスのプロが使う「究極の調理器具」です。
おそらくは、揚げる素材に応じて「高温」と「低温」の二つの鍋を使い分けているようでした。

店主の近藤氏は、「私の天ぷらは素材の追求です」と宣言しているとのこと。
「揚げる」技術の追求だけに終わらず、自ら全国各地の生産者を訪ね歩いて天ぷらの「タネ」(素材)を厳格に選び抜き、仕入れているとのことです。
「近藤」で使う天ぷらタネは野菜が多いことでも知られています。




昼は「菫」「椿」の2種類のコースが、夜は「藤」「楓」「蓬」の3種類のコースがあります。
また、それぞれ「お好み」と「おまかせ」もあります。

この日は三名で伺い、「菫(すみれ)」コースを注文しました。
また、「近藤」の看板商品のように言われている名物の「さつま芋」の天ぷらを、三名で一つ追加でお願いしました。





さて、いよいよ「菫」コース+さつま天のスタートです。
お盆に載って天ぷら皿、天ツユ、天然塩、酢橘、大根おろしが登場します。
ちなみに、お茶は、油を使う天ぷらと相性の良い「ほうじ茶」です。
油取りの和紙は途中で何回か替えてくれます。天ツユ、塩、お茶はお替り自由です。





まずはエビの「頭」から登場です。
頭は旨味が詰まっているので、コクがあり、味噌汁の具などにも使われるほど美味しい部分です。
しかし、茹でた程度では殻が固いので丸ごとは食べられないのですが、天ぷらにすることで、丸ごと食べられるようになっています。

食べてみると、「サクサク、ポリポリ」・・・・と、歯触りが楽しく、揚げ立てなのでとても芳ばしいです。
ポリポリとスナック調の歯応えが楽しめる足の食感を生かすためか、ほとんど「衣」が付いておらず、から揚げに近いですね。
意外と低温で揚げているのか、あまりパリパリとクリスピー過ぎず、油でしっとりとした感じも残っています。





先ほどの「エビ頭」の胴の部分です。油取り紙の上下サイズと比較して頂くと、だいたいのサイズが判ると思います。
衣が薄く、ほぼエビの大きさどおりという感じです。

よく衣で太らせて、エビの数倍もの太さに膨張させて、「花が乱れ咲く」ように揚げる方法がありますが、こちらのお店は基本的に、「タネの持ち味」を生かすべく衣が極めて薄めなのが特徴です。
なお、エビの天ぷらは、油で揚げる際に「尾」の中の空気が膨張して勢い良く「パーンッ」と破裂することがあるので、あらかじめ斜めにカットしてから揚げにかかります。

塩のみで食べてみました。

歯を入れてみると・・・・エビの身は外周は「ぷっくり」として心地よい弾力があり、中心は「しっとり」として舌にからみつくような半レア状態と言う・・・・まさに教科書どおりの絶妙な「火の通し方」です。
置いておくと余熱でどんどん熱が通ってしまいますので、出されたら揚げ立てをすぐに食べるべきでしょう。
塩で食べたせいか、エビの白身のあっさりとしたデリケートな旨味が堪能できます。





二本目のエビは「天ツユ」で食べてみました。天ツユは非常にあっさりとした「極薄味」です。
エビの身の甘味が上品で、肉質がプクプクしていておいしいですね。

ただ、天ツユでは天ぷらの温度が下がるのと、衣のパリッとした食感がふやけてしまうので、塩の方が気に入りました。
それに素材の味を生かすべく、天ツユは薄味なのだと思いますが、ほぼ出汁の味だけと言う感じで、醤油の醸造風味がとても弱めです。
あくまで私的な好みとしてですが、現状の味付けでは、せっかく浸けてもあまりツユの味わいが感じられず、やや中途半端な印象を受けました。
できればもう少し醤油の風味がした方が、タネの「味の輪郭」を出しやすいと思います。

そのせいばかりと言う訳ではありませんが、この日に供された天ぷらのほとんどは「塩」で食べました。
天ぷらはどうしても素材が「油膜」でコーティングされてしまうので、何も付けずに食べると、味がぼやけ勝ちになってしまいますが、少量の塩を軽くピシッと効かせる事で、はるかに素材の旨味が感じ易くなります。

ちなみに、こちらの「近藤」では、上等な「ゴマ油」のみで香ばしく軽やかに揚げるポリシーだとの事です。
また、調理中でも油が汚れると、すぐに新品の油と全量を取り替えていました。そのためか、大量の天ぷらを揚げた油のような疲れて酸化した油のヒネ香が絶無です。
油そのものも非常に上品な香りで、サラリとしていて、クセのある香りの強いゴマ油のネガティブな部分が全くありません。非常に「透明度」の高いゴマ油と言う印象です。





油取り紙の上下サイズと比較して頂くと、大きさが判るかと思いますが、結構大き目の「アスパラ」です。
天ぷらの「衣」がとても薄いので緑色が鮮やかですね。

一口食べてみると・・・アスパラ特有の心地良い苦味が実に鮮烈です。
とっても濃い緑色野菜の風味が、口中いっぱいにほとばしり、あふれ返る感じです。
大量のお湯で「煮る」のと違って、油で揚げるとアスパラの味が完璧に閉じ込められ、全く逃げ出さないからこそ、これだけ「濃い風味」になるのだと思います。
食感は「ザクッ」とする感じで、煮たように柔らかすぎることがなく、それでいてきちんと熱が通った見事な加減です。





天ぷらの定番「レンコン」です。
厚みがあることもありますが、歯応えは「がっしり」としていて、あまり柔らかくはないですね。
「根」なので、香りはあまり感じられないです。レンコン独特のネトッとする繊維質も少なめでした。





次に出される江戸前の「キス」を捌いているシーンです。
幸運にも、アリーナ席で見ることができました。
料理と言うものの醍醐味は、盛り付けの美しさを「目でも楽しむ」とよく言われますが、こちらのお店はさらに一段上を行く楽しさがあります。
そう、「プロの調理の様子」を間近で見て、ワクワクしながら楽しむことができるのです。

素晴らしい手際、全く無駄のない動き、凛々しい表情、そしてプロフェッショナルの手によって、刻々と姿を変えてゆく新鮮な素材達・・・・・。
うーん、本当に「厳しい修行」を長年に渡って続けて来た「プロフェッショナル」の方達のみのオーラが感じられます。素人出身者の営む料理店とは完全に「別世界」ですね。
見ていて、こう言う雰囲気のお店なら、まさに「お金を出して食べるに値する」と強く感じます。

ちなみに、こういうカウンター形式のお店ですと、板前さんと客との会話を楽しむタイプのお店もありますが、こちらのお店ではスタッフの皆さんは特にニコリともせず、ともかく黙々と各自の仕事に没頭しています。
しかし、その所作や立ち居振る舞いは、さすがに銀座の名店だけあって、実に品があり、見ていて頼もしい限りです。





この「きす天」を食べて、正直、「ゾゾゾッ・・・」と鳥肌が立ちました。
そして、いよいよ「慣らし運転」が終了し、「近藤」のアクセルが全開になった事を悟りました。

まさに、まさに、まさに・・・・「凄まじい」までの旨さ。

あまりに、「容赦のない美味しさ」が、私の舌を一気呵成に占領して来ます。

匂い立つふくよかな白身魚の香り、ふっくらと柔らかいのに凛としている身肉、ほんのりとした自然の甘さ・・・。
味わいは極めて上品で繊細なのに、しっかりと力強く、淡白なのに味が鮮烈。

そして後味は・・・・何とも奥ゆかしい上品な、儚くとろけるような甘味が、柔肌のように滑らかな舌触りが・・・・美しい「残像」のように、至福体験の余韻として長く舌に残ります。

数分後、こんなに小さな魚一匹に・・・すっかり打ちのめされている自分がいました。
美味しさのあまり、「ぐぅの音も出ない」と言う体験を初めてしました。

「鱚」は別名、「海の貴婦人」、「海の鮎」、「砂浜の女王」・・・・・などと呼ばれています。
まさに、その真実を語る味です。まさに天ぷらタネの「女王」に君臨する味でしょう。

キスは非常に鮮度の落ちやすい魚です。それゆえに釣り立て「キスの味」は別格と言われています。
こちらのお店は、その難しい「キス」を、驚くべき「鮮度」で出しているのは間違いないでしょう。

そして、さらに・・・キスはとても素晴らしく優雅な甘味がありますが、一方で、身が柔らかく、油が少ない魚です。
つまりそこで、その見事な補強策として「天ぷら」があるのです。
熱々の天ぷらにすることでキスの繊細な味を活性化させるとともに、サクッとした絶妙な衣が歯応えを補強します。
さらに熱されたゴマ油の旨味と芳ばしさが加わることで、あっさりとしたキスの脂肪を見事に補強し、その味わいを、まさに数倍にも豊かに増強しているのです。

こう考えると、「キス」は天ぷらの「申し子」と言えそうです。好んで天ぷらにされる理由がよく判ります。

さらに、こちらのお店・・・・「キス天」は意図的にやや低温で揚げているようで、衣がクリスピー過ぎず、「ふんわり・・・」と絶妙に柔らかな食感と味わいになっていて、「キス」の上品で繊細な持ち味をきちんと生かす揚げ方になっています。
しっかりと力強く、淡白なのに味が鮮烈・・・・まさに、キスの魅力の何たるか・・・・を知り尽くしている「衣」のつけ方と揚げ方は素晴らしいですね。

ちなみに提供される際に「江戸前のキスです」と、一言添えられます。
ただ、キスには「白ギス」や「青ギス」などの種類があり、今ではほとんど白ギスだそうです。
以前の江戸前(東京湾)のキスと言えば青ギスを指していたものが、その生息地である砂浜がすっかり埋め立てられ、今ではほとんど姿を見かけなくなったそうです・・・。

ところで、キスの旬と言えば6〜7月頃、つまり「初夏」ですが・・・・11月の「秋」にしてこの美味しさ。
では、「初夏」に食べたら一体どうなってしまうのでしょうか・・・・。

この「キス」も、絶対に塩だけで食べるのが良いと思います。





肉厚のポッテリとした椎茸、いわゆる「どんこ」ですね。
あまりの超絶美味の「キスのてんぷら」の大ショックの直後だったせいか・・・・
身肉が厚く良い椎茸ですし、上手に揚げてあるものの、さほどの印象は残りませんでした。





そして、「椎茸」で一呼吸つかせた後は、さらに間髪を入れず・・・・「ハゼ」が登場します。
「緩」と「急」・・・・「近藤」の巧みな采配が食べ手の舌を見事に攻略して来ます。

そうして、この「ハゼ」を一口かじった瞬間から・・・今、自分が大変に幸運な経験をしている事を直感しました。

暫らくの間、言葉を失ってしまいました・・・。

目に見えない強大なパワーに、私の全身が翻弄される感覚です。
この時、私の身体と心には、間違いなく「マグニチュード7」クラスの大地震が起きていた状態だったと思います。

この味は・・・・私が過去に食べ歩いて来た「すべての天ぷら」の意味を、価値を、一瞬にして失わせてしまいました。

天然塩を少しだけ付けて、歯を入れ、「サクリッ・・・・」と、小さな音が聞こえた次の刹那、
その食味たるや・・・・まさしく「身もだえ」してしまうほどの、信じ難いレヴェルの美味しさです。

天ぷらにされたことで、「ハゼ」の持つ旨味が活性化し、あっさりとした白身のまま、味が凝縮され、濃厚になっています。さらに微細なゴマ油の香りが加わる事で風味も倍増しています。

歯を入れた途端に、ギュウッと閉じ込められていたハゼの香りと旨味が、まさに口中へ、一斉に「堤防決壊」されたイメージです。
そう、まるで薄い衣によって密閉されていたこの小さな物体の中から、旬の「ハゼ」の馥郁な香りと豊潤な旨味の「大洪水」が「待ち切れん」とばかりに、怒涛の勢いで渦巻きながら口中いっぱいに所狭しとあふれ返るイメージなのです。

さらに・・・・何よりも、「ハゼ」特有の繊維の短い肉質の「活きの良い」歯応えが絶品です。
まるで、短い刷毛(はけ)で舌をなでられるように、舌の上で身の繊維が小踊りし、ほぐれていく様子がたまりません。

「ハゼ」の生命の躍動さえ感得できる味わいです。
「このハゼ、きっと元気で一生懸命、生きていたんだな・・・。」と感慨を覚えてしまいます。



キスに比べて、歯応えのあるハゼ。
そのせいか、やや衣が厚めになり、また高温で揚げているのか、衣に少しだけ「カリッ」とした歯触りが加わります。
この辺は素材に応じて細かに調整しているのでしょう。
ともかく、小型の「白身魚」の魅力のなんたるかを、すべてを知り尽くしている・・・・確かに、神業的な「天ぷら」ですね。


この「ハゼ」と先の「キス」・・・・いずれも美味の「双璧」を成す感じで、実に甲乙付けがたい究極の美味です。
しっとりと「繊細」な歯応えの身肉のキスと比較すると、ハゼは心地よく「躍動」するしっかり生き生きとした歯応えがあります。

言うなればその美味は、「静」のキス、「動」のハゼと言うところでしょうか・・・・。

また、ハゼの旬は「秋」です。
まさに今が旬真っ盛りと言うのもこの極上の美味ぶりに大いに関係していると思います。

こちらの「はぜ天」は・・・・世の多くの超高級レストランの看板メニューを震え上がらせ、そして沈黙させてしまうほどの、恐るべき実力を持っていると思います。
この美味しさは・・・・もし一度でも食べれば、生涯に渡って「鮮明」に心に焼き付いてしまう味。

まさに、「エターナル・ショッキング・テイスト」と言えるでしょう。





いやはや・・・・・興奮しました。
「ハゼのてんぷら」、あまりにも凄すぎます。こんなに食べ物で興奮するのは何年ぶりでしょうか・・・・・。

そんなこちらを見越してか、ここで「一息つく」感じの、可愛い天ぷらの登場です。
小さな玉ねぎを揚げたものです。バラバラにならないようになのか、楊枝が刺してありました。

しかし・・・・・この天ぷら、不用意に口に入れると大変な事になります。
玉ねぎの「皮」の間に、想像以上に「高温の油」を抱き込んでいて・・・・噛んだ瞬間に「ジュワワッ」と、熱い油がほとばしり出ます。要注意です。
楊枝を抜き、箸でオニオンを崩して広げ、多少、冷ましてから食べた方が良いと思います。





いよいよ、次は、「近藤」の名物、「サツマイモ」の天ぷらの登場です。
窓辺に、サツマイモとカボチャが置かれていましたが、見るも立派な丸々と太ったサツマイモです。
「近藤」が、決して天ぷらを「揚げる技術」だけではなく、「素材選び」にもいかに情熱を注ぎ、鋭意努力しているか・・・・が強く感じられます。
ただ、自然のままに育てた野菜は、痩せていて、形も極めて不揃い、とも言いますが・・・・。





さて・・・こちらのお店の名物「さつまいも」の天ぷらの登場です。
オーダーをしてから、ずっと「油鍋」の中で、パチパチと音を立てていました・・・・。
正確には判りませんが、おそらく20〜30分程度はずっと揚げていたと思います。油鍋から上げた後も、すぐに提供せず、しばらく余熱で熱を通していたようです。
ゆっくりと熱を通す事で、「焼き芋」のように、「ふっくら」「こっくり」した食感を狙っているようです。

この日は、三人で訪問ししたため、三分の一ほどにカットして提供して頂きました。
最後の会計の総額から逆算すると、この日の「さつま天」は、元の一つが1000円前後だったようです。写真は三分の一なので、約333円前後と言うことになります。





いざ、食べてみますと・・・・カリッ、サクッ・・・・ホクホク、ホッコリ・・・・。うーん、美味しいですね。

皮目が「カリッ」と焦げていて、身がホクホクするので、イメージとしては「焼き芋」にも近いかも知れませんが、何より「焼き」とは違って水分が蒸発しないので、身が非常に「ホクホク&しっとり」しています。
さらに、ゴマ油の芳ばしい上品な香りを身にまとって、単なる焼き芋よりもはるかに美味しくなっています。

この味は・・・・「さつま芋」と言うよりも、銀座レカンやオテル・ド・ミクニなどの高級なスイーツ、つまり高価なショートケーキを食べている感覚に近いと思います。
絶妙に焦がされて「カリッ」とクリスピーな皮と「ホクホク」する身の舌触りのコントラストの妙味、口中にあふれ返る自然の優美なる「甘味」、どこまでも滑らかな口解け感・・・・。

さすがこちらのお店の「名物」になるだけはあると言えるでしょう。





最後は「あなご天」で締められます。
おそらく意図的と思うのですが、衣が多少「ガリッ」とする位にやや硬めに揚げられています。

キスのような淡白で柔らかな魚は軽く揚げ、ハゼやアナゴのような身の弾力や油のある魚はうっすら焦がしぎみにしっかりと揚げる・・・「さすが」です。

サクサク、ザクザクとする歯応えが絶妙、単に「カラッ」と揚がっているのではなく、しっとりとした滑らか感も備えています。アナゴの身が細胞レベルでほぐれる感じで、繊維の繊細さが楽しめる一品です。
そして、アナゴの油がゴマ油と融合するせいか、油がアッサリとしていて、クドくなくて美味しいです。





そして、息もつけぬほどの美味連続の「天ぷら」がいよいよ終了し、後は「締め」のご飯を軽く片付けて終わりかと・・・・気を抜いたのですが、
数十秒後・・・・その思いが、とんでもない間違いであった事に気付きます。

そう、最後の「ご飯」も信じられないほどに美味しかったのです。

まず、ご飯を見て「ギョッ」としました・・・・。
見た目からして「普通」ではありません。これほどにキラキラと「美しく」炊きあがり、すべての米粒が見事にきれいに「立ち揃って」いるご飯を見たのは実に初めてです。

一口食べてみると・・・・・米の旨味や甘味、風味、モチモチ感、ふっくら感などなど・・・・すべてが想像を絶する「完璧以上」の出来栄えです。
何か、まるで、もう・・・・今までの価値観や体験がすべて崩壊し、自分の知っていた世界とは異なる世界、未知なる新たな世界の地平が目の前に出現したかの如き感覚です。





この神々しいまでに光り輝く「白米」の美しさ・・・・。
まさに、「神域」と言える美味しさです。
まさに、「コペルニクス的転換」を体験したとでも言えそうな・・・まさしく驚天動地の「白米」体験です。

魚沼産の契約栽培の極上コシヒカリの無農薬新米を玄米状態で仕入れた上で、低温で保存し、使う直前に精米し、おがみ洗いをして、ミネラルウォーターに浸し、大きな羽釜もしくはプロ用のガス釜で炊き、上手に蒸らしてから、炊き立てを出す・・・・と言う「美味なる御飯」を炊き上げるためのフルコース仕様となっていると想像します。

また、ひょっとしたらですが、そのフルコースに加え、炊く前の米を手作業で「選別」している気がします。なぜなら、この御飯の何よりさらに「凄い」ところは、すべての「米の粒」の大きさや形が、きれいに、完璧に、「揃っている」ことです。
そのために、見事に「食感」の足並みがきれいに揃っています。

驚く事に、食感を乱す「小さい」米粒や、「割れ」や「欠け」のある米粒が一つも混じっていないのです。こんな御飯は今までまったく見た事がありません。
ましてや糠臭さなど絶無で、そのあまりに見事すぎる輝ける米粒は「銀シャリ」と言う表現を超えて、まさしく宝石の「パール」、真珠の輝きを持つ美味しさです。
ただ、「米の形」が長く、日本で人気の「短粒種」ではなく、どこかしら「中粒種」を連想させますね。実際はどこの産地の、何と言う銘柄の米なのでしょうか・・・・。





さらに、さらに・・・・まだまだ、予想だにしなかった驚くべき「伏兵」がいました。

ズバリ、「香の物」です。
実は、まったく期待していなかった「香の物」・・・・そのあまりのアンビリーバブルな桁外れの美味しさに、本当に「全身に落雷が走った」と言うほど強いショックを受けてしまいました。

まず、香りを嗅ぐと、「胡瓜」も「蕪」も・・・・いやはや、何と言う、「清々しく、鮮烈な香り」・・・・なのでしょう。
スイカのように「芳醇な甘い香り」が、私の鼻腔を占領し、そのまま脳天へと突き抜けて行きます。

うーん、なるほど・・・・だからこそ「香の物」と呼ぶのかと、初めてその語源の真の意味が理解できました。


そうして、一口食べた数秒後・・・・・

まさに「夢心地」の味わい・・・・です。
信じがたいほどに「高貴なる濃い味わい」に遭遇し・・・・ほとんど放心状態です。

この未体験の美味しさ・・・・にわかには信じ難い・・・・禁断の「天上の世界」を垣間見てしまったかのような・・・・実にショッキングな体験でした。
漬物が、舌に気持ちの良い「ひんやり」とした適温に冷やされているのも、この究極的美味しさの実現に大きく奏功しているでしょう。
瑞々しい冷たい果肉が、舌の油をきれいさっぱりと洗い流し、見事にリセットしてくれます。

この究極の美味「ご飯」と、天上世界の「香の物」・・・・この無類のコンビを、日本人に生まれたのであれば、生きているうちに是非とも一度は食して欲しいと思います。

それにしても、まさか・・・・
このような小さな漬物で、これほどの生涯屈指の「衝撃」を受けるとは・・・・。
特に、「きゅうり」を食べた刹那は、私の思考は完全に停止し、30秒は体が硬直し、顔が上げられなかった・・・・です。

まさに、「言葉を失う美味しさ」と言えば良いのでしょうか・・・・。
たかだか「胡瓜」が・・・・これほどに「広大で深遠なる自分自身の味の世界」を持っていたとは・・・・。

なんと、「これが僕の本当の味です。本当の僕はこんなに美味しいのです」と・・・・「きゅうり」が「きゅうり自身の味」をしっかりと語りかけて来る感覚です。
普段食べているきゅうりが、いかにも、「死んだ味」「枯れた味」「ひからびた味」に感じられます。
それらは香りが全く感じられず、味は単に水っぽいだけです。
さらに言えば・・・・キュウリは典型的な「夏野菜」です。この11月の時季に、果たしてどのような手法で、このようなキュウリを入手されているのでしょうか・・・・。

うーん・・・これからは「野菜様」、「植物様」と、敬称を付けて呼びたくなる程の、生き物の「種」(しゅ)としての「尊厳」を感じさせられる味わいです。
これからグルメ好きの知人と会うたびに、「貴方が今まで食べた中で一番ショックを受けた美味しいものは何ですか?」と、尋ねられた際に、「きゅうりです。」と応えたら、ジョークだと思われ、笑われてしまうでしょうか・・・・。

ちなみに、こちらで使っている「きゅうり」・・・・おそらくは昔ながらの純粋な「本物のきゅうり」だと思います。
実は現在、世間に出回っているほとんどの「きゅうり」は、純粋な「本物のきゅうり」ではないのです。

「キュウリ」はとても病気に弱いらしく、特に「根腐れ」を起こしやすいそうで、最近では栽培する上では、病気に強い「かぼちゃ」の苗(根)に接木(つぎき)して育てた「キュウリ」がほとんどのようなのです。
無理やり下半身を「かぼちゃ」にされてしまい、しかもそれをビニールハウスで促成栽培するのですから・・・・味わいもまた「むべなるかな」でしょう。
農家の方は、家計を支えるための「収益源」として野菜を育てる訳ですから、まずは安定した収穫と生産性アップが最優先課題と言うことなのでしょう。

ちなみに「かぶ」も同様に非常に美味しかったです。
やはり、馥郁たる香りと、鮮烈な味・・・・「これが、カブの本当の味なのか・・・」と克目する、衝撃的な美味しさでした。

あまり上手に表現できませんが、「きゅうり」も「かぶ」も、食べ手の体をすっかりと「浄化」し、「解毒」してくれるような「凄み」のある味・・・・。
と言えば、私の受けた驚くべき衝撃が少しは伝わるでしょうか。

また、その美味しさはどこかしらフルーティでもあり、果物と野菜の区別がつかなくなってしまう気分です。
フルーツに醤油を使わないように、こちらの香の物もできれば醤油などをたらさずに、そのまま食べてみて欲しいと思います。

ちなみに「野沢菜」(?)も十分に美味しかったですが、他の二品の凄さの影にやや隠れてしまう印象でした。





「赤出汁」です。具は大粒の美味しい「しじみ」です。
味噌汁とは異なり、赤出汁特有の「あっさり」としたコクの、サラッとした味わいです。

やはり天ぷらのような油を多用した料理には、こういう赤出汁が合うと思います。
実の「しじみ」は大粒の極上品でした。

このシンプルな赤出汁のあっさりとした味わいが、味覚感銘の連続で興奮さめやらぬ熱くほてった心身を、優しくクールダウンしてくれる・・・・そんな印象です。



いざ、食べ終わってみれば・・・・・

ともかく「美味サプライズ」の連続に次ぐ、連続・・・・。息つく暇もない1時間10分でした。
すべて「さすが」と言う美味しさでしたが・・・・あえて、美味のランキングをするとしたら・・・・


一位・・・・江戸前「はぜ」の天ぷら

二位・・・・「きゅうり」と「カブ」の香の物

三位・・・・江戸前「きす」の天ぷら

四位・・・・「ご飯」

五位・・・・「さつま芋」の天ぷら


といった感じでしょうか・・・・。
さつまいもの天ぷらは、とても美味しかったですが、事前情報でこちらの名物と伺っていたので、ある意味予想通りの味だったと言うこともあります。

こちらのお店を体験すると、
「天麩羅」とは、実は天ぷらと言う「食べ物」なのではなく、「素材」を美味しく食べるための「調理法」を指すのだと悟らされます。

天ぷらにすることが「目的」なのではなく、天ぷらとは「旬の素材達」を美味しく頂くための、あくまで一つの「方法」「手段」「過程」に過ぎないと解るのです。

主役はあくまで「素材」達。いかにして素晴らしい「素材」を集め、どうしたら最も美味しく、その持ち味を引き出して美味しく食べることができるか・・・・。
その回答が、高温の油で熱することで素材の旨味を見事に活性化し、同時に衣で覆って素材の旨味を封じ込める・・・・・「天ぷら」と言う調理法なのです。


訪問前は、「近藤」の天ぷらコースは、「野菜」中心と言うことで、少々侮っていた気持ちがあったのですが・・・・いざ食してみれば、野菜達の「凄さ」「美味しさ」に出会い、そんな自分が恥ずかしくなってしまいました。

真心のこもった美味しい料理は、食べる人を「確実に幸せにします」。

今回、私も、こちらの「近藤」で、まさしく、大いなる「味覚感銘」と「至福体験」を、実にありがたく頂くことができました。
「美味しかった」と言う気持ちももちろんですが、それよりも強い「感謝」の念が先に立って感じられます。

こちらの「天ぷら 近藤」には、多数の超高級レストランや海外ブランドの本店が軒を連ねる日本一高級な街「銀座」を背負って立つ実力が、確実にあると思います。



                       〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜



最後に、「てんぷら近藤」を、さらに一層美味しく食べるための私的攻略法を披露したいと思います。

■名物の「さつま芋の天ぷら」は調理に20〜30分位かかるので、席に着くと同時にオーダーする必要があります。後では間に合わなくなる可能性があります。大きいので二〜三人で一つが適量でしょう。

■ラストのご飯は、「天茶」なども人気のようですが、あの超絶白米の味が純粋に楽しめない気がします。
天茶は未体験なので、何とも言えませんが、敢えて「白いご飯」の選択も「あり」だと思います。

■天ぷらはなるべく「天然塩」で食べましょう。
タレは薄味ですが、衣がふやけてしまうのと、余計な味が後付けされる事で素材の味を霞ませてしまう気がします。もしくは半分は塩で、残り半分は天ツユでと言うのも良いかも知れません。

■天ぷらは客へ出された後も油の余熱で、具に対する火の通りはどんどん進んでしまいます。出されたらすぐに食べましょう。


いざ、銀座「近藤」で、究極の味覚感銘の旅へ・・・。



(すべて完食)




↓続きあり






〜てんぷら近藤 その2〜




2006年8月下旬 椿(つばき) 7350円

再び、銀座の有名な天ぷら屋さんである「てんぷら近藤」(中央区・銀座駅or有楽町駅)さんを訪問してみました。
前回の「大感激」の訪問以来、次回のチャンスを伺っていたのですが、いつの間にか、ほぼ9ヶ月も間が開いてしまいました。




お店は銀座屈指の高級ショッピングストリートである「並木通り」、別名「ブランド通り」に面しています。
相変わらず歩道にはゴミ一つ落ちておらず、良く手入れの行き届いた街路樹が、目に優しい「緑」を添えています。




ビルのフロアガイドです。
この日は、昼の12時半頃に二名で伺いました。




入店しますと、前回訪問時に座った客席スペースを通り越して、右手奥の「奥の間」へと案内されました。
前回は気付きませんでしたが、「近藤」のフロアは「手前」と「奥」の二つのスペースに分かれていたのですね。

店主の近藤氏ご本人は「手前」の客席スペースの揚げ場をご担当されていて、こちらのスペースでは、お弟子さんが二人で揚げ場をご担当されていました。
おそらくは一番弟子に当たる方とその補佐の方なのでしょう。




メニューです。
「昼」は、「菫(すみれ)」と「椿(つばき)」の二つのコースがあり、さらに「お好み」と「おまかせ」の二つのアラカルトがあります。

今回は、こちらのお店の名物の一つと言われている「天茶」を頂きたかったので、「椿コース」を「天茶」で選択しました。
同行者は同じ「椿コース」を「天丼」で選択しました。




左側は「お飲物」のページです。
飲み物メニューは意外にシンプルな構成ですね。

「ビール」はメーカーによって味が異なりますし、「日本酒」は蔵や銘柄によって、まさに千差万別の味ですので、
できればいくつかの銘柄を置いて、客の好みに合うよう、選択できるようにして欲しい気もします。





さて、いよいよ「椿コース」のスタートです。

中央の器は「天ツユ」用です。天ツユは徳利に入って提供されますので、好きなだけお替りができます。
油取りの和紙は途中で何回か替えてくれます。天ツユ、塩、お茶はお替り自由です。

「塩」の器に添えられる柑橘は、前回は「柚子」でしたが、今回は「レモン」が添えられています。
天ぷらに添える柑橘は、今回の「レモン」よりも、前回の「柚子」の方が合うと思いますが、夏場はレモンを出すのでしょうか?
夏場の柚子は、小さな「青柚子」ですが、秋にかけて成熟して次第に行き、冬場に黄色の完熟柚子のシーズンを迎えますが・・・・まだ旬には早いと言うことなのでしょうか。

左の小皿はオロシ生姜の添えられた大根オロシです。天ぷらをサッパリさせてくれる陰の立役者です。
ちなみに、この大根オロシを食べてみますと、単に「辛味」一辺倒ではなく・・・・最初にほど良い「甘味」が来て、次にピリッとする「辛味」が来て、そして最後に豊潤な「瑞々しさ」がやって来ます。
つまり、味わい深い非常に美味しい大根おろしです。
また、上に添えられたオロシ生姜も素晴らしく「鮮烈」で「馥郁」な芳香です。おそらくは切れ味鋭い「銅がね」で卸しているのでしょう。





さて、「椿コース」のトップバッターは、前回同様に、まずは「海老の頭」です。
「衣」がほとんど付けられておらず、「天ぷら」と言うよりも、ほぼ「唐揚げ」に近い印象ですね。

一つは塩で食べ、もう一つは天つゆで食べてみました。
味は前回と全く同様で、「サクサク、ポリポリ」・・・・と、歯触りが楽しく、スナック菓子調の歯応えが楽しめますが、決してパリパリとクリスピー過ぎずに、油でしっとりとした感じも残っています。
揚げ立てなのでとても芳ばしいですが、エビ味噌のコク・・・・と言う点では、天ぷらにしてしまうと味噌の旨味が飛んでしまうような気がしました。

また、天ツユを一口使ってみて、すぐに気付いたのですが、前回の薄味の天ツユに比較しますと、明らかに「甘口」にシフトして感じられました。
おそらくは「ミリン」が増えたような感じの甘味が出ており、隠し味として「日本酒」のような香りが極微細に見え隠れするような・・・・気もします。
また、ダシ風味も一段階「濃く」感じられ、幾分はっきりとした味わいになり、天ぷらを浸すと、「ツユを使っている」と言うはっきりとした自覚を促される味わいです。

おそらく自家製のツユで、季節やタネの種類に応じて、微妙に味付けを調整しているのかも知れません。
好みの問題かも知れませんが、前回のツユが大人しすぎるように感じられていましたので、今回位の主張のあるツユの方が私は好きです。





二品目は、先に出された「海老」の「胴」です。
やはり、衣は「薄着」になっており、ほぼ海老の原寸大の天ぷらとして仕上げてあります。
こちらのお店は基本的に、「タネの持ち味」を生かすべく衣が極めて薄めなのが特徴です。

前回同様、エビの身は外周は「ぷっくり」として心地よい弾力があり、中心は「しっとり」として舌にからみつくような半レア状態と言う・・・・まさに教科書どおりの絶妙な「火の通し方」です。
前回も感じましたが、海老の旨味や香りが、非常に上品で淡白ですね。
個人的には、もう少しクセがあったり、海老の風味が強く感じられる方が好きです。





二尾目は天ツユで食べました。
置いておくと余熱でどんどん熱が通ってしまいますので、出されたら揚げ立てをすぐに食べるべきでしょう。
今回は天ツユの味がぼやけず、しっかりしているので、美味しく食べられます。

ただ、一尾目もそうでしたが、噛み切る際に、エビの尻尾が、やや糸を引きずる感じがありました。
海老の「背綿」が残っていたのでしょうか・・・・。
また、前回のプクプクと身がはじけた立派なサイズの海老と比較しますと、一回り小振りになっているようです。





三品目も前回と同じ、「アスパラ天」です。

「ザックリ・・・・」と、歯で噛み切る感触と、その後にあふれるアスパラの芳香が心地良いです。
独特の青野菜の苦味とともに、ほんのりとした甘味が感じられます。





お次は、「ピーマン天」です。
結構、「大柄」のピーマンですが、ほとんど「衣」が付いていない状態です。

職人さんから、「中のタネごと召し上がれますので・・・」とご案内を頂きました。





中を見てみますと・・・・なるほど、内側にビッシリとタネが付いていました。

高温の油で揚げているので、確かにタネも柔らかくなっています。
この無数のタネが舌の上で「ワラワラ」「コリコリ」とする感覚がなかなかのアミューズメントで、食べていて楽しいです。
ピーマン特有の苦味も微細にあるのですが、それ以上に野菜としての「甘味」「旨味」のある美味しさです。





職人さんは、こちらの食べるペースを良く配慮してくれて、前のものを食べ終わらない限り、次の揚げにかかろうとしません。
つまり、決して「ダブらない」ように、天ぷらを提供してくれます。

お寿司でもそうですが、常にタイミング良く「出来立て」が提供されるのは、「カウンター席」で食べる醍醐味ですね。
細かに食べ手のペースを考えてくれているのが伝わって来ると、美味しさも倍増します。





さて、お待ちかね・・・・いよいよ、「江戸前のキス」です。
「鱚」(きす)の旬は初夏の頃です。

前回の訪問時は11月の秋の頃でしたが、その「秋」にしてあの筆舌に尽くせない「絶品のキスの美味しさ」でした。
ですので、今回の8月であれば・・・・より「旬」に近い分、さらなる「高み」に登り詰めたような・・・・超絶の美味しさを持つ「キス天」に出会えるだろうと・・・・大いに期待していました。

ですが・・・・しかし・・・・。

うむむ・・・・。

残念ながら、前回の「きす天」のような、「ゾゾゾッ・・・」と鳥肌が立つような「凄まじい」までの美味しさは体験できませんでした。
「匂い立つふくよかな白身魚の香り、ほんのりとした自然の甘さ・・・・」は十分にあったのですが、湧き立つ旨さのパンチや元気さがあまり感じられず、
前回のような「ふっくらと柔らかいのに、凛としている身肉」「上品で繊細、淡白なのに、しっかりと力強く、味が鮮烈」・・・・と言う感じではありませんでした。

後日、前回の近藤氏の揚げた「キス天」と写真を比較してみたのですが・・・・どうやら「見た目」からして大きな違いがあります。
マウスポインターの矢印で、上の画像を指しますと、前回の超絶美味の「キス天」の写真が出るようになっています。

前回のキス天は(1)身が力強く反り返り、(2)衣に花が咲いたように広がっていて、(3)二股に分かれた身の間にも衣が見事に埋められています。また、全体に「凛」とした引き締まり感があり、心地良い緊張感と躍動感が感じられます。
試しに他のグルメ系サイトを検索し、「近藤氏」の揚げたキス天の写真をいくつか見てみましたが、同じようにキスが力強く反り返り、見事に衣の花が咲き、二股の箇所にも衣が密集しています。

比較しますと、今回のキス天は、仕上がりが「ソフト」と申しますか・・・・どこかしら「のっぺり」としていて、全体がやや弛緩して感じられます。
うーん・・・やはり・・・・稀代の揚げの名手と言われる「近藤氏」のみが体得している、他者の追随を許さない「揚げの奥義」の世界が・・・・確実に存在すると言うことなのでしょう。





キスは非常に鮮度の落ちやすい魚で、しかも身が柔らかい魚です。
今回、たまたまの「ブレ」だとは思いますが、衣が身からややはがれている箇所があり、身もわずかに身崩れを起こしているような・・・・微細なグズグズ感がありました。

衣がクリスピー過ぎず、「ふんわり・・・」と絶妙に柔らかな食感と味わいになっていて、全体としては十分以上に美味しいキス天なのですが、
あくまで「前回」の超絶キス天を知ってしまっている身としては・・・・キスの身の食感がわずかに荒れていて、やや水っぽく感じられるとともに、旨味が衣の中に上手に閉じ込められておらず、油鍋の中へ多少流れ出してしまったような印象を受けます。





岩手県産の「原木しいたけ」だそうです。

敷かれている紙の上下と比較して頂くと判るかと思いますが、結構大きなサイズです。
ちなみに多くのキノコは「秋」に育って採取されますが、「椎茸」は、一年で二回収穫できることが多い、珍しいキノコです。

前回の11月に食べた椎茸は、冬の寒い時季にゆっくりと育った、肉厚でずんぐりとした「冬茹」(どんこ)と呼ばれる椎茸でしたが、今回の椎茸は気温が高い春にスクスクと育った「香信」(こうしん)と呼ばれるものですね。
暖かい時期に育つ「香信」は、肉は薄めですが傘が大きく開いて育つのが特徴です。

前回の「冬茹」の肉厚のポッテリとした食感とは異なり、今回の椎茸は傘が開いていたため、歯応えや弾力は柔らかめなのですが、濃厚な「旨味」がはちきれんばかりに豊富で、少々驚きました。
「椎茸」と言うよりも・・・・まるで、「肉」を食べているような旨味の濃厚さでした。
オガクズを固めた安い菌床で栽培したのではなく、「原木」で栽培したものは味が濃くなるそうですが・・・・。





京都上鴨の「万願寺唐辛子」だそうです。

登場して、「おくら?」か「ししとう?」・・・・と思ったのですが、「唐辛子」と聞いて少々驚きました。
「万願寺とうがらし」は、いわゆる伝統的「京野菜」の一つで、全く辛くない「甘唐辛子」です。
6月下旬〜8月が旬で、そのビッグな大きさから唐辛子の王様などとも呼ばれているようです。

食べてみますと、歯触りが素晴らしく「サクサク」していて、クリスピーで、目の覚めるような小気味良い食感です。
そして、唐辛子の「香り」や「味」は非常に「鮮明」なのですが・・・・全く「辛味」がありません。

オロシ生姜と大根オロシを少し付けて食べてみますと、これが抜群に良く合い、鼻腔が「スカッ」として、舌の上が「サッパリ」として・・・・強烈な「気付け薬」のような効果があります。
まさに「夏向け」の一品、湿気の多い夏の「暑気払い」には最適の一品です。

ただ、口に入れて食べている時は「辛味」は全く感じないのですが、食べ終えて1〜2分経ちますと、後からわずかに「ジワッ・・・」と辛味が残像のように立ち上がって感じられます。
その香りにも、やはり「唐辛子」特有の、揮発性の薬理成分を含んでいるような感じがあります。





後方で「出番」を待つ野菜達です。

「南瓜」、「蓮根」、「アスパラ」、「賀茂茄子」、「茗荷」、「椎茸」、「ピーマン」、「万願寺トウガラシ」、「ミニオニオン」・・・などが並んでいます。





「アオリイカ」です。
イカの「王様」、イカの「最高峰」・・・・などと評される高級イカです。寿司ダネでも人気がありますね。
まさに8月の「真夏」に旬を迎えると言いますが、仕入れもかなり高価なようです。

食べやすいように、揚げた物をササッ・・・と包丁で切って提供してくれます。





断面を見てみました。
うーん・・・・この素晴らしい肉厚感、これぞ「イカの帝王」と呼ばれる所以でしょう。
中央部が半透明で、絶妙な熱の通り具合を示しています。

食べてみますと、前歯は「サックリ・・・」と入り、小気味良く噛みちぎれるのですが、いざ奥歯で噛み締めますと・・・・
例えようのない「豊満なモッチリ・・・感」で歯を包み込んで来ます。
確かに「高級感」&「力強さ」にあふれる歯応えと、上品であっさりしつつ豊かな旨味とジューシー感、後口に残るほのかな甘味などなど・・・・実に「堂々とした」味わいに満ちています。

ただ、肉厚な分、冷めてしまいますと硬くなって感じられますので、熱々のうちに早めに食べ切るのがコツだと思います。





大型の換気扇です。職人さんがスイッチでコントロールしているらしく、時折、「ゴーーーッ」という低い作動音がします。
ギラギラとしたステンレスの内部には照明が配置されていて、まるでちょっとしたオブジェのようです。





上鴨の「もぎなす」です。こちらも京野菜の一つだそうです。

京都の茄子と言えば、「賀茂茄子」が有名ですが、この「もぎ茄子」は、慶応時代〜明治初期頃より栽培されている「伝統野菜」だそうです。
現在では京都でも生産農家が減ってしまい、良質物の入手は簡単ではなく、「幻の茄子」に近い、高級野菜だそうです。
旬は初夏の頃、茄子としては小粒でほろ苦味のある味が特徴だそうですが、ゴマ油で揚げていてるせいなのか、苦味は消えていて、むしろ茄子の実の「甘味」が豊かに感じられます。

また、茄子の身に包丁で細かな切れ目が沢山入れられているため、その隙間に「油」をたっぷりと抱き込んでいて、非常に「熱々」「ハフハフ」の状態でした。





前回も登場した「プチオニオン」です。
バラバラにならないように楊枝を刺して、小さな玉ねぎを揚げたものです。
しかし・・・・・

こちらの天ぷらですが、玉ねぎの「皮」の間に、想像以上に「高温の油」を抱き込んでいますので・・・・噛んだ途端に熱い油がほとばしり、不用意に口に入れると大変な事になります。





ですので、楊枝を抜き、箸でオニオンを崩して広げ、多少、冷ましてから食べました。

食べてみますと、「ホクホク」と熱々ですが、皮の表面が熱で粘液のように活性化していて、一枚ずつ「ツルン、ツルン」と皮がむけてゆく歯触りが楽しいですね。
まるで小さな「玉手箱」を開けて行くようなワクワクする面白さがあります。

揚げ油の加熱で溶けかかった「ツルリ」とする表面の滑らかな舌触りと、「サクサク」とする繊維感が絶妙の美味しさ。
味は加熱された玉ネギに特有の甘味が強めに出ており、砂糖や人口甘味料の類とは「まるで違う」、非常にナチュラルな風味、柔らかい野菜の甘味です。
そこへゴマ油の香ばしさが加わって、なかなかの「逸品」になっています。

ただ、同行者は・・・・玉ネギのサイズが異なったせいか、玉ネギの中心まで十分に火が通っておらず、歯触りが硬い箇所があるとの感想をもらしていました。





さて、いよいよ最後の一品、「穴子天」です。

結論から申し上げますと・・・・・今回登場した天ぷら中では、断然、圧倒的な「一位」の美味しさでした。

「サクッ」とする衣の歯触りと、身の「柔らかさ」が絶妙のコントラストとなり、素晴らしい美味しさのハーモニーを奏でます。
さらにゴマ油の「香ばしさ」と、穴子の身の「甘味」とが無限のスパイラル状にからみ合い、得もいわれぬ美味しさの次元へと昇華しています。

それでいて、決してクドくなく、全体の食味がさっぱりとして「軽さ」があり、旨味の密度が濃いにもかかわらず、極めて淡白です。
身肉の繊維感が微細に砕けて、その全ての合間から、上品な甘味が湧き立ちます。

特に・・・・この「甘味」の素晴らしさ&美味しさは「比類なし」ですね。
長らく後ろ髪を引かれるような・・・・いつまでも後に粘るような・・・・「コク」のある甘味でありながら、一切の「重さ」や「クドさ」のない甘味が素晴らしいです。

白身魚特有の、トロける濃密なクリームのような旨味、それでいて軽くキレのあるさっぱり感、そして非常に繊細な身肉の組織のデリケートな食感・・・・「淡さ」と「濃密なコク」が見事に同居する旨味・・・・。
もちろん、生臭みなど金輪際「絶無」であり、実に「肌理」の細かな身肉の繊維感が舌の上に展開される様子は、まるで「春の雪融け」のような・・・・素晴らしい口解け感です。

この「何物にも替え難い」美味しさ、これと同じ「美味しさ」を持つ食材は「他にはない」と確信させられます。
まさしく、穴子には穴子だけが持つ「独自の美味しさ」の世界が確実にあります。

正直言って、前回の11月に食べた「穴子天」とは、比較にならない美味しさです。
揚げ方も完璧な事に加え、穴子の「旬」は、栄養豊富な川の水がたっぷりと海へ流れ込む「梅雨」が明ける頃、つまり、ちょうど今頃の「7〜8月」と言われていますので、やはり「旬のパワー」は素晴らしいと言うことなのでしょう。





写真の断面を見ても判るとおり、さほど「肉厚」ではないのですね。
しかし、実は「食通」の人に伺った話では・・・・こと、「穴子」に関しては、肉厚の太った穴子よりも、一見スレンダーなスリムな穴子の方が、実際には遥かに味が良いそうです。
まさに、今回のアナゴを食べますと、「正論」だと思いました。

世の中、「鰻」がすっかり養殖物が主流になってしまい、その養殖鰻の人工的な甘い脂の美味しさばかりが「偏重」して評価されている事に比較しますと・・・・ありがたい事に、「穴子」はまだそのほとんどが「純天然物」です。
上手に調理された天然育ちの穴子は、コクと旨味にあふれながら、同時にさっぱりとしていて、その身肉はどこまでも「緻密」「繊細」「ナイーブ」・・・・です。
その味わいは「節度ある脂の乗り」と、れっきとした魚としての身体を思わせる「肌理細かい筋肉繊維感」の美味しさがしっかりと生きています。
こちらの穴子のナチュラルで繊細、かつ、コクとあっさり感が同居する美味しさに比較しますと、世の養殖鰻のほとんどは、「肥満」&「大味」・・・・に感じられてしまいます。

また、こう言う「絶品アナゴ」を食べますと、世の中で流通している他のアナゴとの大きな違いに・・・・果たして、どうしてこれほどまでに「天地の差」が出るのか、一体なぜなのだろうと不思議に思えてなりません。
時折、他店で穴子天を食べますと、身肉が「ブヨブヨ」としてまるでゴムのようだったり、魚特有の強い生臭みが出ていたりして、辟易してしまう事があります。
もともとは同じように生きていた「穴子」を、なぜわざわざ、どうしてこんな風にひどい味にしてしまうのだろう・・・・と不思議に思います。
海で泳いでいた段階では、さほど味に大きな差はなかったと思うのですが・・・・。





さて、いよいよラストを締める「天茶」と「香の物」です。
急須の中にダシ汁が入っています。

薬味として山葵(わさび)が添えられます。
このワサビも強く「ツンッ」とし過ぎず、山葵の清々しく清冽な香りだけが見事に生きています。





かき揚げ天は、衣は「サクサク」として、「ふうわり」と空気を含み、実に三次元の「立体的」な食感です。
実は、揚げるところをみていましたが、最初に全部の具に衣を付けて揚げるのではなく、最初に「種」となる部分を油に浮かし、そこへ徐々に具と衣を足して行く揚げ方をしていました。

具は、様々なタネが混じって使われていましたが、最も目立ったのは「小柱」でした。そして次に「小海老」です。
もう、かなりの量の「小柱」と「小海老」が、たっぷりと入っていて、その豊かな弾力ある歯応えとあっさりとした小粒な旨味が、噛む度にあふれて来ます。
ただ、逆に言えば、両者とも「モギュとした歯応え」がありますので、それなりの長時間、「よーく」噛まないと、なかなか飲み込めません。
最後の「締め」の一品であれば、もう少し「あっさり」「すんなり」と食べられる方が、食べ疲れしないような気がします。

また、小柱も小海老も美味しいですが、いざ「かき揚げ天ぷら」として、衣との「マリアージュ」によって美味しさの新境地を切り拓いているかと言うと・・・・そう言う新たなる美味しさを感じさせるものではなく、あくまで「小柱」と「小海老」の味に終始している印象でした。

個人的に好きな「かき揚げ天」のタイプは、ポッテリとした大きな「衣」の中に「具」を包んで、具の旨味を閉じ込めてジューシーに仕上げたタイプです。
「衣」はふっくらとして厚みがあり、外側は「カリッ」「サクッ」としているのに、中心は「フワフワ」「トロトロ」でジューシーに仕上がり、歯を入れると一斉に具材の旨味が流れ出して来る・・・・その芸術的な「火の入れ方」による食感の魔術に魅了されます。

その点、こちらのかき揚げ天は、最初に小さく揚げて、衣や具を少しずつ足していく手法のため、ポッテリとした「塊り」感のあるものにならず、中心から隙間を空けつつ、枝葉が生い茂るように衣が広がり、内も外も均一に揚がっているタイプです。
ゆえに、このように「サクサク」とガラス細工のような繊細な歯触りと、空気を「ふんわり」と含んだ立体的な食感に仕上がるのでしょう。





まず、この天茶の「出汁ツユ」だけを少し飲んでみましたところ、これが想像を大きく超えて、素晴らしい美味しさです。
「まろみ」と「旨味」が恐ろしいほどに「円く」調和し、まさに「和食」の基本どおりの実に「優美&風雅」なるダシの美味しさです。ツユ単体でゴクゴク飲みたいです。

しかし、しかし・・・・。

いざ、「天茶」として食べ始めてみますと、せっかくの「超絶美味ご飯」の旨味が、ダシ汁に埋もれてしまって、米の味が何とも判りづらいです。
特に米粒一つ一つが「プチプチプチ・・・と弾ける感じ」「旨味がギュギュ〜ッと凝縮した感じ」・・・・が、ダシによってご飯がふやけてしまい、極めて「曖昧」になってしまいます。
はっきり言えば、「ダシ汁」がひどく「邪魔」に感じられ、せっかくのご飯の美味しさをほぼ完全に「スポイル」してしまうイメージです。

やはり、完全無欠の「白飯」の前には、あらゆるものが邪魔と言う気持ちです。
あらゆるオカズ、あらゆる調味料、「塩」や「お茶」までもが無用の長物であり、一切何も加えず、何も足さず、その純粋な「米の旨さ」を何者にも邪魔されたくないと言う強い気持ちに成ってしまいます。

例えるならば、宝飾の世界で、純白に光り輝くダイヤモンドの上に、赤いルビーや青いサファイアや緑のエメラルドを、やたらと重ねてしまうようなものでしょう。
ルビーや、サファイアや、エメラルドも、「単体」では美しいですが、最高グレードの絶品ダイヤモンドには、それ以上の余計な加飾はまるで無用です。
せっかくの絶品ダイヤに、むやみに他の宝石の色を重ねてしまう行為は、「タブー」以外の何物でもない・・・・と言う感想です。

ただ、「ご飯」の美味しさにこだわらず、あくまで「天茶」としての「全体像」で考えてみますと、極めて上品で上質、大変に凛々しく美味しい「天茶」です。





「香の物」です。

実は、今回最も楽しみにしていたのが、「夏野菜」の代表でもある「キュウリ」でした。
前回、11月と言うシーズンオフでさえ、あれほどの超絶美味だったのですから、今回の8月、「旬」真っ盛りの味は、「どれほどの美味が現出するのか・・・・」、いやが上にも期待が高まっていました。

まず、右下の「ウリ」ですが、「パリッパリッ」と明確にクラックする賑やかな音と食感です。
「乾いた」「明るい」歯応えで、口の中で「パキョパキョ」と音を立てて割れるのが楽しいです。
風味は非常に、あっさりとしています。果肉には水気がたっぷりで、舌に残っていた天ぷらの油を洗い流してくれます。





さて、いよいよキュウリを食べてみますと・・・・。
これが意外にも、「キュウリ」も、まさに「ウリ」そのものと言う感じの食味です。

よくよく考えたら、「きゅうり」は漢字で「胡瓜」と書く位ですし、そもそもれっきとした「ウリ科」の野菜であり、ウリの仲間の味がして当然なのですね。

そして、しっかりと「完熟」しているキュウリです。皮目が「パリパリッ」と音がするほどに硬く、露地栽培を確信させる「皮の硬さ」があります。そのため歯を押し返すほどであり、「歯応え」が半端ではありません。
このキュウリからは、「軟弱さ」が微塵も感じられません。
真夏の灼熱の太陽光、遮ってくれる物のない強烈な紫外線(UV)から自分の身を「守り」、自然界の無数の害虫から自分の身を「防衛する」には、これ位のしっかりとした丈夫な「外皮」が必要だと言う事なのでしょう。
うーん・・・・「なるほど」、と納得です。いやはや、毎回、実に様々な「発見」をさせてくれるキュウリです。

そして前回のような、「清々しい高貴なる鮮烈な香り」「スイカのような芳醇な甘い香り」のキュウリではなく、もっと「パワフル」で「筋骨たくましい」食感と、「太陽の匂い」「日向の匂い」のする味わいでした。
実は、先週、知り合いの農家から「無農薬有機&露地栽培&自根&ブルーム種&朝摘み」と言う「五条件」の揃った旬真っ盛りのキュウリを頂いて、食べたのですが、今回のキュウリと全く同じ、硬い皮とパワフルな歯応え、そして太陽の匂い・・・・がするキュウリでした。
自然界では、「弱くては生きて行けない」と言うことなのでしょう、キュウリも異様に「頑健」に育つようです。

美味しさと言う点では、前回の11月のキュウリは「フルーツ」のような美味しさでしたが、こちらは、全体から、人の手を拒絶して、自分の生命力で「土と太陽の下に育つ」生き物としての「強さ」が感じられる、実に「逞しい味」と言う印象です。
軽く塩もみをしているのか、表面付近からうっすらと塩気が感じられました。青い皮の部分に心地良い苦味がわずかに感じられます。





こちらは同行者の注文した「天丼」です。

せっかくなので、ほんの「一口」だけ分けて頂き、食べてみましたが・・・・・「かき揚げ」自体は、ほぼ予想の範囲内でしたが、前回同様に「白飯」が異様な美味しさです。

わずか一口の米を、数回噛んだ途端、舌に触れた途端、
「うぅ、おお・・・来た、来た・・・来たー・・・・」と言う声が私の脳裏にコダマして聞こえて来ます。

その直後、「ゾワゾワゾワゾワ・・・・・」と、私の足元から背筋にかけて、ゆっくりと、しかし、一斉に「鳥肌」が立ち昇って来ました。
まるで「無数の蟻」が「ゾワゾワゾワゾワ・・・・・」と這い登って来る・・・・そんな不思議な「幻覚」を伴う「陶酔感」です。

そして数秒間・・・・私の「手足」が見えない鎖で縛られたかのように一切の身動きができなくなりました。
それにしても、まさか、まさか・・・・・いくら美味しいご飯とは言え、わずかに「一口だけ」で、ここまで己の「凄さ&旨さ」を食べ手にきっちりと伝えて来る「米」が存在するとは・・・・。

しかも、タレがかかっていたにも関わらず・・・・「天ツユ」や「天種」の美味しさを大きく出し抜いて、それらをすっかりと押しのけて、突出して「ご飯」が美味しいです。
「ぎっしり」と詰まりに詰まった「お米の旨味」・・・・ただただ・・・・「恐るべし」です。

前回のご飯も異様に美味しかったので、思わず職人さんへ「どちらの産地の、どのような銘柄の米を使っているのでしょうか?」とお尋ねしましたところ、
「二種類のお米を使い分けしておりまして、宮城県産のコシヒカリと千葉県産の○○○です。」とのお返事でした。千葉の○○○は初めて聞く米の銘柄だったため、うっかり失念してしまいました。

実は、去年11月の「近藤」訪問、そして今年6月の「ぽん多本家」(上野)訪問以来、私は改めて「白米」の美味しさに目覚めて、その超絶美味を自宅で再現すべく、様々な銘柄の米を、様々な炊き方で、かなりの回数チャレンジしているのですが、いまだその美味しさの7割も実現できていません。
ただし、「ご飯の美味しさ」を大きく左右するのは、米の銘柄や産地その物の味も重要ですが、ある程度の価格以上の米であれば、あまり銘柄や産地による差は少ないと感じ始めています。
むしろそれ以上に、とにかく「炊く器具と火種」、そして「炊き方と蒸らし方のテクニック」に、「究極の美味ご飯」を生み出す大きなウェイトがあるような気がし始めています。





こちらは同行者の注文した「天丼」に付いていた「味噌汁」です。
一口だけ飲ませて頂きましたが、赤味噌のキリリとした味わいに、きっちりと煮干ダシの旨味が乗っていて、まさしく「目が覚めるような美味しさ」です。

白味噌と異なり、赤味噌には「甘味」が少ないため、ダシが貧弱ですと全く味気ない味噌汁になってしまいますが、今回のこちらの味噌汁は、味がしっかりと舌に乗って来ます。





最後に登場する季節のデザートです。今回は「いちじく」でした。
実に大きくて実の詰まった立派なイチジクです。

余談ですが、「イチジク」は聖書にもよく登場するほど、「イチジク」と「人間」のつながりの歴史は相当に古いです。
しかし、これほど人間とつながりの深い歴史のあるフルーツでありながら、普段は滅多に生のイチジクを食べる機会はないですね。





イチジクは漢字で書きますと、「無花果」と書きます。
読んで字のごとく、一般にイチジクは、「花を咲かせずに果実を結ぶ」と考えられています。

しかし、実際には、写真の中央の空洞付近にある繊毛のような物が、実はイチジクの「花」なのだそうです。
そして周囲の果肉に見える部分は、実は果肉ではなく「花托」(かたく)と言う組織なのだそうです。うーん・・・・実に不可思議なフルーツです。

食べてみますと、ヒンヤリと冷やされていて、どこまでも「優雅」な味わいです。
その果肉は・・・・「砂糖」などとはまるで異なる、非常にナチュラルで繊細な甘味・・・・口に入ると、まるで「生クリーム」のように溶けてゆきます。

食感は、やや硬めにホイップした脂肪臭さのない「生クリーム」が近く・・・・味わいや香りは・・・・うーん・・・・フルーツの中では、おそらく「桃」の味わいが一番近いですね。
特に、真ん中の小気味良く「シャリシャリ」する箇所を除けば、ほぼ「桃」の味でしょう。桃よりもあっさりとして、糖分が控えめで、もっと「自然に近い味」のイメージですが・・・・。

中央の空洞部分の「花」が、細かく「ツブツブ」「プチプチ」「シャリシャリ」とする歯触りがします。
これがアクセントになって、何とも不思議で、個性的な美味しさのフルーツになっています。



                       〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜



さて最後に、再び、「てんぷら近藤」を、さらに一層美味しく食べるための私的攻略法を披露したいと思います。

■前回の「菫コース」(5250円)と、今回の「椿コース」(7350円)を比較して考えますと・・・・・
野菜が一品増え、かき揚げとフルーツが加わる事で、2100円のアップとなる事を考えますと・・・・お得感で言えば前回の「菫コース」、きっちりと良質デザートまで・・・・と考えるなら、「椿コース」と言う事になるかと思います。
ただ今回、いくら良質のゴマ油で揚げ、衣が薄く、野菜類が多いとは言え・・・・さすがに、最後のかき揚げまで加わり、それなりの量の天ぷらを食べますと、どうしても・・・・多少は胃に来るものがありました。
ただ、今回の油はやや黄色が濃かったですので、油のコンディションの違いも多少あったのかも知れません。

■昼の部は、12時のスタートと、1時30分スタートの、2回に分かれて予約を取っているそうです。コースですとほぼ1時間10分ほどで食べ終えられますので、妥当な時間割でしょう。
ただ、その「総入替制」のためでしょうか、中途半端な時間に訪問しますと、2回転目のスタート時間に食い込まないように奥の間へ案内されるようです。
実際、今回、手前の席スペースに「空き」があったにも関わらず、私達は中途半端な時間に訪問したため、奥の間へ案内されました。また、たとえ12時に予約していても、先に手前の席が満席になってしまえば、当然、奥の席へ案内される事でしょう。
店主の近藤文夫氏は、手前の客席スペースを担当しています。お寿司や天ぷらは、同じ素材を使っても、職人さんが変わればどうしても味も変わります。
つまり、天ぷらの超名店「近藤」を「近藤」たらしめる稀代の名人「近藤文夫」氏の揚げた天ぷらを食べたいなら、きっちりと12時前に一番乗りを目指して早めに伺うのが良いと思います。

■今回の訪問は真夏の8月と言うこともあり、店内はきちんとエアコンは効いていますが・・・・食べている途中から、結構暑く感じられ、額に汗がにじむシーンもありました。
実は、座った席が熱い油場が近かったせいか空気が「熱」をはらんでいましたし、また、9Fと言うことで窓からは直射日光が燦々と降り注いでいた事もあります。
そこへ、揚げ立て「熱々」の天ぷらを連続して食べるのですから、「外」と「内」の両方から・・・・熱を感じてしまい、最後の方はなかなかの暑さでした。
暑がりの方は、扇子などを持参しても良いかも知れません。

■「タネ」は旬のものが使われますので、自分の食べたい魚介類の希望があるなら、その「旬」に訪問するのが良いでしょう。事前に電話で「仕入れ」の状況を確認するのも良いかも知れません。
また、既製のコースではなく、好きなタネだけを指定して食べられる「お好み」で注文するのも良いと思います。私なら、次回は11月に訪問して、ぜひ「江戸前のハゼ」を中心に食べたいです。



(すべて完食)











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