01ch グルメ食べ歩き
近野屋
(群馬県 太田市)

店名 うなぎ 近野屋(ちかのや)
住所等 群馬県太田市新田木崎町1000 【地図表示】
禁煙 タバコ可(灰皿あり)
訪問日 2007年1月上旬 うな重(天然) 4000円(時価) + 肝吸い 210円 




〜天然鰻 近野屋〜



2007年1月上旬 うな重(天然) 4000円(時価) + 肝吸い 210円 

今回は、北関東の「うなぎ屋さん」の中でも「美味しい天然うなぎ」が食べられるお店として巷で評判の「近野屋」(太田市・木崎駅)さんを訪問してみました。

こちらのお店は、創業200年超と言う、江戸時代から続く由緒ある「鰻屋」さんだそうで、歴史ある「日光例幣使街道」の宿場町の一つである上州「木崎宿」の中心地にあります。




お店は、「日光例幣使街道」に面しています。
江戸時代には、この「日光例幣使街道」と「足尾銅山街道」の交差点でもあったこちらの地は、上州新田郡「木崎宿」として多くの旅人で賑わう比較的大きな宿場町として栄えていたそうです。

ちなみに「例幣使」(れいへいし)とは、天皇の命により神社に「幣帛」(へいはく)と呼ばれる神への捧げ物を奉るため遣わされる「勅使」の事だそうです。
参考までに調べてみましたところ、こちらの街道は、江戸時代、京都の朝廷から、栃木県の「日光東照宮」神社へ向けて派遣された「例幣使」の一行が、毎年、通った事から「日光例幣使道」の名が付いたとの事です。

ご存知のように、「日光東照宮」は江戸徳川幕府の開祖である徳川家康公を奉祀して創建された神社ですが、その徳川家康の命日に行われる東照宮「例大祭」の法要へ向け、
なんと221年間も毎年欠かさず朝廷からの遣い(例幣使)が派遣されたとの事で・・・・当時の徳川幕府の力がいかに大きかったかを忍ばせます。




お店の右手の小窓部分が厨房で、奥に向かってかなり奥行きのある建物になっています。
ただ、建物は道路からやや奥にあり、しかも白い看板の「うなぎ」と書かれた文字が小さいため、通り過ぎに注意しましょう。

実は、インターネットで「天然鰻 利根川」で検索をしてみましたところ、こちらお店が2番目にヒットし、利根川の「天然鰻」を扱う伝統ある老舗店である事を知りました。
実際、関東最大の河川である「利根川」の流域沿岸に当たるこちらの土地は、古くから良質な「天然ウナギ」の産地でもあったようで、江戸時代の「産物帳」と言う史料にも、こちらの土地の名産品として「鰻」が挙げられているとの事です。
その鰻の美味しさは、「江戸前の鰻」に対抗する、「江戸後ろ」「江戸向こう」の鰻と呼ばれて、遠く江戸にまで名声が届いていたそうです。




入店してすぐの場所にある「小上がり」スペースです。
右に見える壁の裏手が厨房になります。

待ち時間用にグルメ系の情報誌が積み重ねられ、出前用の「おかもち」が置かれています。




メニューには、「天然物期間限定」と書かれています。
お店のHPを拝見しますと、「天然鰻」の提供は、毎年6月〜11月頃と記載されていました。
利根川産の天然うなぎを、群馬県産の白楢炭と秘伝のタレで焼き上げるそうです。

ちなみに、「天然鰻」が市中に良く出回るのは、気温が高くて鰻が盛んに活動してエサを食べる(=よく釣れる)「夏」の頃なのですが、味が良くなる本当の「旬」は、産卵や冬に備えて栄養をたっぷりと蓄える「秋」が本番です。
特に、秋の訪れとともに海へ産卵に向かって川を下る太った成熟鰻は、同じ「天然うなぎ」の中でも一般の鰻とは区別されて、特に「くだり鰻」と呼ばれて珍重され、「格」も「値段」も明らかに「別格」の扱いを受けています。
特に日本最大の流域面積を誇る「利根川」の下り鰻は、天然物の中でも特に「最高の美味」と言われているようで、鰻好きにとって文字通り「垂涎の的」になっています。

実は、私も以前からこの「利根川の下り鰻」を一度食べてみたいと思い、今回、2006年の「秋」に食べるつもりでいたのですが、多忙のため時機を逸してしまい、年が明けてしまいました。
秋を過ぎて冬になり、水温が下がってしまいますと、鰻はエサを食べなくなり、川底の泥の中で動かなくなり冬眠のような状態に入り、そのため、ほとんど市場に出回らなくなってしまうのです。

既に1月では・・・・天然物は無理と諦めつつも、ダメ元で電話をしてみましたところ、幸運にも、「大きなサイズの天然鰻ならあります」との事で、今回、急遽の訪問となった次第です。
一人では、大きな鰻が余ってしまうと思い、二名でドライブがてら太田市まで伺うことになりました。




メニューの裏側です。
各種の「丼物」に加え、お子様専用のカレーライスやオムライスまであるのは、家族(子供)連れの多いご近所のニーズに合わせているのでしょう。

それにしても、「養殖鰻」と「天然鰻」の価格差が、わずかに700円から・・・・と言うのは、東京ではちょっと考えられない嬉しさですね。
天然物の価格が極めてリーズナブルであるのは、さすが天然鰻の名産地の面目躍如・・・・と言うところでしょうか。

ちなみに天然物の鰻は「2500円より」となっていますが、今回の天然鰻は「ビッグサイズ」でしたので、鰻重にして一人前4000円でした。
また、「肝吸い」は別料金で210円となるのですが、せっかくの「天然鰻の肝」ですので、併せて注文させて頂きました。




待ち時間の間、トイレへ立ちましたところ、長い廊下がありました。
どうやら両脇はお座敷になっているようで、かなりの客席キャパシティを有しています。
お店のHPによれば、収容人数は100名まで可能だそうです。

左手前の部屋に明かりが点いているところを見ますと、先客が何名かいたようです。





さて、いよいよ利根川産「天然鰻」のうな重の登場です。

おおお・・・・確かに「大物」の鰻ですね。
半身であるにも拘らず、重箱に収まり切らず・・・・尻尾がトグロを巻いています。そして身肉が隆々と力強く盛り上がっています。

このサイズからしますと・・・・おそらく天然鰻の中でも、特に巨大で極太の「ぼっか」や「ぼっく」と呼ばれる最大サイズの鰻だと思います。
「ぼっか」と言う呼び名は、まるで「棒杭」(ぼうくい)のように太い鰻であることから、「ぼうくい」が訛って「ぼっか」となったと言う説があります。

一緒に置かれた割箸と比較して頂ければ、そのサイズの巨大さが伝わるかと思いますが、これだけ大きなサイズの鰻になりますと、見ただけで「天然うなぎ」である事が確信できます。
なぜなら、「養殖うなぎ」ですと、ここまで大きなサイズは流通していないでしょう。
養殖事業は、何よりも生産の効率(飼育日数)や市場ニーズ(サイズ的な手頃さ)を最重視しますので、このように大きく育つ前に出荷されてしまうからです。
記録によれば、鰻は最長で何と50年以上も生きる事があるようですが、この位の大きさですと、おそらく既に10年以上は生きて来た鰻なのではないでしょうか。

ちなみに、注文してから「うな重」の登場まで、45分ほどの待ち時間でした。

ホール係の店員さんは、「大変お待たせいたしました」と、盛んに恐縮されていましたが・・・・活きていた鰻を桶から出してさばくことから始めますと、どれほどのベテラン職人でも、鰻重の提供まで早くても30〜40分前後はかかります。
鰻が大きくなれば更に「蒸らし」などに時間がかかり、一時間位はかかる事も珍しくないのが鰻重ですので、「45分」と言う待ち時間は、この大きさとしてはむしろ早い方と言えるでしょう。

ちなみに、「香の物」の沢庵と白菜は、ヒンヤリと冷たくて、爽やかな薄味で、口中を非常にさっぱりとリセットしてくれました。
沢庵はほんのりとした甘味もあり、うっすらと香る糠(ぬか)の風味が上品で、小気味良くパリッパリッ、ポリンポリンッと、明快に「クラック」する明るい歯応えが最高の美味しさでした。
おそらく自家製の漬物だと思われますが、実に洗練された上品な味わいで、非常に美味しいです。





うーん・・・・素晴らしい「焼き」の技術ですね。
鰻に身の「反り返り」や、「焦げムラ」がほとんどなく、また「串打ち」の後が全く目立ちません。

実は、地方の鰻屋さんへ伺いますと、鰻の品質自体は良くても、焼き方が「我流」と言いますか、「荒っぽい」と言いますか、
まるで素人による「焼き魚料理」の延長線的な印象を受ける事も少なくないのですが、
こちらのお店の蒲焼は、確実に「修行したプロ」にしか身に付けられない特有の見事な「高い水準の技術」を感じさせられます。

インターネットの情報によりますと、こちらのお店は「出鰻」と「水蒸し」と言う伝統の調理法を頑なに守るお店だそうです。
つまり、客の顔を見てから鰻を割き始める「出鰻」と、白楢炭で素焼きした鰻を冷たい井戸水にさらす「水蒸し」を数度繰り返して余分な脂を抜き、
さらに蒸篭で蒸す・・・・という手間のかかる調理法を、今なお頑なに守って仕上げているとの事です。





さて、鼻を近づけてみますと、焼けた炭の香りや、焦げたタレの匂いに混じって、独特な「甘い香り」が鼻腔をくすぐります。

今回、「天然うなぎ」と言うことで、もっと「川の香り」や「水草の香り」が漂う事を予想していたのですが・・・・
ちょっと意外な・・・・まるで「バニラ」のような・・・・「バタークッキー」のような、甘くてかぐわしい匂いがします。

ちょうど、バニラエッセンスと玉子・・・・そして高級な無塩バターたっぷりと使った、しっとりとしたパウンドケーキや甘いクッキーを焼いている時に漂う
素晴らしい匂いを連想させる、甘くて、馨しい、エレガントな匂いなのです。

そして、さらにその陰に隠れるかのように・・・・「カシス」のような・・・・「マスクメロン」のような・・・・「甘い&トロピカル」調の馥郁たる香りが感じられます。
この、まるで「オーデコロン」や「ブーケ」のような、トロピカル調の優雅な香り・・・・はっきりと良く似た「何か」の香りを、以前に何度も体験している気がします。

ただ、「それ」が何なのか・・・・すぐには思い出せませんでした。

ミルキーな甘い「バタークッキー」のような匂いがする鰻は、以前にも「大和田」(千葉県)や「尾花」(荒川区)で食べた事がありますので、さほど驚かなかったのですが、
もう一つの「カシス」のような、「マスクメロン」のような、「甘い&トロピカル」調の香りはいったいどこからやって来るのでしょうか・・・・。

鼻腔をくすぐり陶酔させる甘美な誘惑調の「香水」のような・・・・フレグランス系の甘い匂いなのです。
最初は醤油やミリン以外にタレに何かを混ぜているのかな・・・・とも思ったのですが、どうやら鰻の身から漂う「甘くてトロピカル」な匂いのようです。

また、通常、「匂い」と言うものは、すぐに鼻が慣れてしまい、同じ匂いには反応が鈍り、次第に感じなくなってしまう物ですが、この焼き立てのバタークッキーのような甘い匂いと
トロピカル調の不思議な香りは、最初の一口目から最後の一箸を食べ終えるまで、微細なレベルながらもずっと感じられていました。
しかも、決して出っ放しではなく、現れては隠れ、隠れては現れるという・・・なかなか見事な香りの伴走ぶりでした。





こちらは同行者の食べた「胸」の部分です。

やはり、半身で重箱いっぱいに覆い尽くしています。こちらも「身の反り」や「身の割れ」と言う物が一切ありません。
ひとかたならぬ身肉の厚さと、熟練の職人芸の成せる技なのでしょう。





アップで見てみますと、「炭火焼」ならではの焦げ方をしている事が良く判ります。
灼熱の炭火により、タレがちょうど「レンガ肌」のようにザラザラに、ツブツブに、濃いこげ茶色に・・・・コンガリと焼き上がっています。





さて、いよいよ鰻に箸を入れ、まずはちょっと「背中の皮」を見てみました。

焼き色が付いているため、やや判りづらいですが、背中が美しい「深緑色」をしています。
つまり、俗に「アオ」と呼ばれる最高の鰻です。

また、お腹が白ではなく、天然鰻に特有の黄色がかった色をしています。
これが「鰻」の語源になったとも言われる「胸黄」(むなぎ)色なのでしょう。

これが一般の養殖鰻ですと、そのほとんどは・・・・どこか青白い「薄墨色の背中」と、うらなりっぽい「白い腹」をしています。

また、皮はかなりの厚みがあるのですが、まるで「ちりめん」のように激しく縮んでシワが寄っています。
実は・・・・今回頂いたこちらの天然鰻において、最も大きなインパクトを受けたのが、この「皮」の食感でした。

焦げて黒くなった表皮と、白い身肉の間に、濃いブルーグレーの「ムッチョリ」としたゼラチン質の膜が存在している写真からも判ります。
「鯛」や「鮭」でも一番美味しいのは身肉ではなく「皮」だとは良く言われますが、同様に「ボック鰻」の最大の美味しさも、この「皮目」のゼラチン質にこそある・・・・と言う人もいます。

食べてみますと、厚みのある皮にも拘らず、非常に柔らかく、硬直したような硬さが絶無で、ピトピト、ネチネチと粘度が高く柔らかく活性化しており、いかにも割き立ての鰻の皮らしいビビッドな食感です。
そして、この「皮下」の厚みのあるゼラチン層が、「ムニュムニュ」「ブニュブニュ」と盛んに伸び縮みして、「ムチムチ、ムッチョリ・・・」と、歯に粘り付くような食感を生んでいます。

まるでつき立てのオモチのように良く伸びる、この驚くほどに豊かなゼラチン感・・・・過去に食べて来た幾百の「鰻」では一度も感じた事のない「無類の食感」に感じられました。





一方、タレの味は妙なクセがなく、甘すぎず、辛すぎず、良い塩梅ですが、どちらかと言えば「穏やかな味」「サッパリとした薄味」に感じられました。
この「穏やかさ」は、じっくりと「蒸らし」で熱を通し、あまり焼き焦がさない上品な焼き方にも影響されている気がします。

また、鰻の身肉がやたらと厚いせいで、タレの味が鰻の表面だけに感じられ、タレが鰻の中までじっくりと染み込んだ感じがあまりしませんでした。
そのため、体積比的にタレの量が少なめに感じられた事も、やや「さっぱり薄味」に感じられた理由のように思います。


さて、食べ進んで行きますと、再び例の「トロピカル調の甘い香り」が意識されて来ます。
この「カカオ」のような・・・・「カシス」のような・・・・「マスクメロン」のような・・・・甘いトロピカル調の微細な香り。

半分ほど食べ進んだところで、いよいよ何と一番似ている香りなのか閃きました。

この、まるで「媚薬」のような・・・・うっとりとするトロピカル調の、めくるめく甘く誘惑する香りは・・・・ズバリ、「ムスク」の匂いです。

ご存知のように、「ムスク」とは、ジャコウジカの雄の生殖腺の分泌物(フェロモン)で、貴重で高価な動物性香料の一種ですが、
この天然鰻からは、まさにその一種の「フェロモン」のような魅惑の香り、「官能的な芳香」が感じられるのです。

もっと正確に言いますと、真夏の海辺、太陽が燦々と降り注ぐ南国のビーチに漂う「サンオイル」の匂い・・・・
つまり、「ムスクの香り」タイプのサンオイルの匂いを彷彿とさせる香りなのです。

甘くて、トロピカル、灼けたオイルの甘い香り、麝香(じゃこう)とココナッツオイルの匂いが灼熱の太陽の下に混じり合って、「ジリジリ・・・・」と灼けるイメージの匂いです。

うーん・・・・あまりにも予想外の香りで、何とも不思議です。
よもや、成熟した鰻が産卵期に分泌するフェロモンの匂いとも思えませんが、このような・・・・「ムスク」のパヒュームテイストを持つ鰻とは初めて出会いました。

ちなみに、鰻は幼い頃は雌雄同体で、成長するに連れオスかメスに分かれるそうですが、飼育池や水槽で人工的に飼育された養殖鰻と、
自然の河川で本能に基づき成長した天然鰻とでは、鰻の「生殖組織の大きさ」や「雌雄の比率」が大きく異なるそうです。
その歴然とした「生態の差異」を見ますと、天然鰻には、養殖鰻には無い、何らかのホルモン作用が働いているのは間違いないでしょう。

いやはや・・・・「天然の鰻」の生態は実に奥が深いです。





また、巨大な天然鰻ゆえ、さぞや隆々と発達した筋肉を想像していたのですが、実際の食感は「真逆」と感じられるほどの柔らかさでした。

いわゆる自然界を生き抜いて来た「荒っぽさ」や「野性味」は影を潜め、身肉の筋肉繊維がしっかりと立ち揃った感じや、くっきりとささくれ立つ身肉の歯触りは控えめです。
むしろ、厚い皮の「モニュムニュ」「ポヨポヨ」とする柔らかく粘る「ゼリー感」が印象として強く残るのです。

写真ではプリプリと弾むような身の厚さ、隆々として分厚い筋肉を湛えた「身肉」に見えますが、
食べてみますと、白身は「ふよふよ」として舌の上でトロける柔らかさで、じっとりとあふれ出す透明な油を豊かに内包し、
引き締まった筋肉繊維を感じることがないのは実に意外でした。

先の「ムッチョリ」と伸び縮みして良く粘る厚い皮のゼラチンと、この「フヨフヨ」とゆるやかにトロける柔らかな身肉・・・・が一体となって醸す食味の世界は、
今まで食べて来た鰻とは、「全く異なる食感」「新次元の口当たり」です。

食べる前は、良く運動する「天然うなぎ」の先入観として、もっと身肉の筋肉の「繊維感」が舌に触るはずと思っていたのですが、
なぜこう言ったゼリー状(ゼラチン質)の歯応えや食感になるのか・・・・不思議に思って少し調べてみました。

生きている時の天然鰻の身肉は極めて強靭で、特に分厚い背皮は非常に硬いそうですが、それは繊維性の蛋白質であるコラーゲンが多いからだそうです。
しかし、このコラーゲンは上手に加熱調理する事で、そっくりそのまま水溶性ゼラチンに変化させる事ができます。

つまり、コラーゲンがたっぷり豊富で強靭な身体を持つ大人の天然鰻ほど、上手に加熱調理した場合、プルルン、ネットリとするゼリー状(ゼラチン質)の柔らかな蒲焼になると言う事なのでしょう。
今回の鰻は、まさにその「お手本」と言う気がします。

そして同時に、ここで「ハッ」と閃きました。

この皮下の柔らかく舌に粘る独特なゼラチンの厚い層・・・・ある別な食べ物と非常に良く似ていると直感したのです。

そう・・・・この、熱い雑煮の中で蕩けたお餅のような・・・・「モニュムニュ・・・」「ム〜ッチョリ・・・」と舌に絡み付き、よく粘る「ゼリー感」は、
ズバリ、「フグの唇」や、「スッポンの首皮」とそっくりの食味なのです。

つまり、ある種の「水棲生物」に特有の皮下組織を構成する「ゼラチン質」に共通する食感と味であり、
しかも・・・・いずれも「和食の世界」では「高級食材」として珍重され、持てはやされている食材です。

こう考えますと、美食の世界においては、「ゼラチンの持つ魔力」を感じずにはいられません。





鰻の断面は、まさしく「はちきれん」ばかりの身肉の盛り上がり方で、養殖鰻ではこう言う身肉の「盛り上がり」は見た事がありません。
また、断面に「炭」の微細粉が付着しています。ガス焼きでは、この微粉末を見ることは絶対にありません。

ただ、鰻の表面は、炭火特有の「パリッ」とか、「サクッ」とか、「カリッ」とする「炙り物」的な感じは、意外にも少なめです。
せっかくの炭火ですし、個人的には「炭火によるコンガリとした芳ばしさ」が大好きですので、もう少しだけ焦がして欲しい気もします。

一方で、その分、アグレッシヴ的な面が少なく、全体が「ふっくら」「ゆったり」としている食感で、とても優しい味わいに満ちています。
余分な油も上手に落とされているようで、口当たりがギトギトとしつこく感じるような脂のクドさも一切感じられませんでした。

この極めて品格のある焼きの技法や、薄味の肝吸い、上品な漬物などを拝見しますと、200年に及ぶと言うお店の確かな「血筋」「血統」のようなものを感じます。


ただ、堂々として立派な「天然鰻」や、品位ある「タレ」「焼き」の仕上がりに比較しますと・・・・使われている「ご飯」の香りや旨味、食感は、今ひとつ主張が弱いように感じられました。
炊き方は上手で、一切のダマもなく、一粒一粒がきれいに分離しているのですが・・・・「ピンッ」と立ち揃った感じが少なく、やや「フニャッ」として柔らかめに感じられます。
もう少し「外硬内軟」と言いますか、もう一歩、歯応えが出て欲しい気がします。

また、おそらくは、ご飯釜は一つで、他の800円台の丼物メニューと共通のご飯を使っているような印象を受けました。
もし、そうであれば、やはりコスト的にあまり高価なお米は使えない事になります。

ロスを出さないためには仕方のない事とは言え・・・・今回のご飯は、せっかくの天然鰻のパートナーであり、4000円の食事のご飯としては、
ちょっと大人し過ぎると言いますか、どうしても香りや旨味の点で、やや力不足のご飯に感じられてしまいました。
実際、「両者のバランス」と言う意味において、相対的に、どうしても「ご飯」側が多少弱く感じられ、全体の満足度の足をやや引っ張っていたかも知れません。

お寿司なども、「通」に言わせますと、寿司の美味しさの「6割」はシャリの美味しさだと言います。
人によっては美味さの「8割」がシャリにあると言う人もいるほどですので、天然鰻の入荷があった時などは、お米にも一層こだわる事で、さらにグーンと全体の満足度も大きくアップする気がします。

なお、後半になって、少しだけ山椒を使ってみましたが、非常に穏やかな香りの立ち方をする山椒でした。
全体が「ふっくら」「ゆったり」としている今回の蒲焼や、やや薄味のタレには大変良くマッチしていたと思います。





オプションで注文した「肝吸い」です。

透き通ったダシから想像するとおり、とても上品な薄味で、ダシの風味は極めて控えめですが、「肝」は素晴らしく堂々とした、実に見事な美味しさでした。

クニクニとする魚の内臓特有の歯応えがとても立派で、噛むほどに心地良く、いかにも活きが良い「肝」と言う感じの歯応えです。
そして、噛み始めた直後は、さほどでもないのですが、数秒もしますと、徐々に鰻の肝に特有の「苦味」がゆっくりと立ち上がって来て、
さらに数秒後・・・・・「ドッパ〜〜ン」と、一気に堤防が決壊したかの如く、猛烈な「苦味」が口中にあふれ返ります。

まるで、多段ロケットのように、初めはゆっくりと、しかし、徐々に加速しながら、最後はフルブーストで「苦味」が全開になって迸り出て来る感じです。

味の立ち上がり方が非常にスロースタートなのは、後付けの「調味料」による味ではなく、素材その物の内なる味、本来の持ち味・・・による内省的な味だからなのでしょう。
そして、どこか清清しさのある苦味で、「上品であっさりとした苦味」と言いますか、「淀みのない清冽な苦味」と言いますか・・・・嫌なエグ味やネガティブ要素が絶無な苦味なのです。

「汚れのない苦さ」「きれいな苦味」「健康な苦味」と言う印象で・・・・むしろ、「苦味」もここまでピュアに極まると、素晴らしく「美味しい」と感じられます。
実際、これだけ「目が覚める」ような鮮烈&ピュアーな苦味は、日常の飲食では、まず滅多に出会えないでしょう。

そして、苦味の引き際が、非常に「さっぱり」「すっきり」「颯爽」としていて、ある瞬間を過ぎると、まるで蜃気楼の如く・・・・口中から姿を完璧に消し去ってしまいます。
肝吸いの汁に透明感があり、極めて薄味なのは、この天然肝のエクストラピュアな「苦味」の裸の美味しさを、ダシの味などで邪魔しないためなのだと理解できます。

ピュアな「苦さ」は素晴らしく美味しい・・・・。
私は、この日、この肝を食べて、人の味覚を代表する「五味」(甘、辛、酸、苦、鹹)の中に、なぜ「苦」が入っているのか・・・・初めて理解できた気がしました。





三つ葉をどかして、アップで見てみました。
肝臓だけでなく、胃などの内臓も具に使っているようです。

サイズも立派なのですが、それよりも何よりも・・・・間違いなく、私が過去に食べて来た「鰻の肝」の二位以下を大きく引き離して、史上「最高峰」と確信できる絶賛の美味しさです。

この「肝」の小片の魅力、その実力の全容をきちんと味わい尽くす意味でも、薄味のお吸い物で食べられたのは幸運でした。
「肝焼き」などにしてしまいますと、タレの濃い味でこの絶品肝の本来の持ち味が半減してしまうような気がします。

よく、家畜のエサに、もし添加物や薬品、抗生物質や有害物質等が含まれていると、それらはすべて家畜の「肝臓」(レバー)に溜まってしまうと言われます。
そう言う動物のレバーは濃いタレの味付けや化学調味料、スパイス、香草等で味を濃くしてごまかさないと、臭くてエグくて、素のままではとても食べられませんし、そもそも食べては危険です。

しかし、良質のエサと水を食べて育った牛や豚や鶏のレバーはこの上なくきれいな味で、一切何も調味料を付けずに食べても、鮮烈で、非常に美味です。
今回の良質な天然鰻の肝吸いを頂いて、「鰻」もまた同様なのだと確信いたしました。

この立派な「肝」の忘れ得ぬ美味しさ・・・・まさに「天然鰻の真価」を語るに相応しい美味だと思います。




さて、かねてからの念願であった利根川産「成熟天然鰻」(ぼっくサイズ)の鰻重を食べ終わり、お店を後にしますと・・・・・
言いようのない「エネルギー満充填感」、あふれ出る「滋養成分大量摂取感」・・・・・に全身が包まれ、只ならぬ「満足感」に襲われました・・・・・。

鰻の産卵はいまだに未解明な部分が多いようですが、産卵する鰻が集まる秘密の場所が広大な太平洋の深海のどこかにあるようです。
つまり、成熟した天然の鰻は川を下って海へ出た後、広大な太平洋の大海原を延々と何千キロメートルも泳ぎ続け、ありとあらゆる万難を排して、
DNAに記録された「約束の地」へと自力で辿り着くだけのスーパーヘヴィな体力&スタミナを、この細い体の中に備えている事に成ります。

しかも、その数千キロに及ぶ最期の航海へと向かう鰻は、たっぷりと栄養を蓄え、脂が乗って肥え太った反面、既に胃や腸などの消化器官は役目を終え退化しており、
数ヶ月にも及ぶ長旅の間、ほとんどエサを口にしないのだとか・・・・。

実際、絶食状態でも一年以上も生き続けた鰻の例もあるそうで・・・・・これなら、人間が食べて「精が付く」のも当然と言えるでしょう。

それでいて、今回の鰻重は、油がギトギトとかコッテリしている訳ではなく、いかにも魚油らしくサラサラとしている感覚で、後口は意外にサッパリとしていて、ほとんど胃にもたれる事がありませんでした。
しかも、適度に余分な油を上手に落としながらも、鰻のギラギラとした「精分」を抜けさせず、ふっくらと軽い感じに仕上げてあるのは「さすが」です。

ただ、「天然うなぎ」は、均質な条件で育てられた養殖鰻と異なり、同じ川で採れたとしても、一匹一匹、年齢や大きさ、食べていたエサの質や量、運動量も違いますので、
身肉の厚み、食感や香り、脂の乗り、コクなど・・・は、当然ですが千差万別と言うことになります。

これが「鮎」などの一年物の川魚ですと、まださほど大きな差にはならないのかも知れませんが、ボッカ鰻のように「十年物」クラスの大物になりますと、
同じ川で獲れ、同じ店で提供される鰻でも、すべての鰻は「出自」が異なり、一匹、一匹、確実に「味」が違うと考えた方が良いと思います。
そう言う意味では、私など、まだまだ天然鰻の真の美味しさの「氷山の一角」「百分の一」も理解できていないのでしょう。


それにしても、もし今回のサイズの天然鰻を都内の有名店で食べれば・・・・おそらくは「福沢諭吉」が一枚で足りたかどうか・・・・微妙なところだったと思います。

いずれにしても、ますます少なくなってゆく「天然うなぎ」・・・・・。
鰻好きを自負する方であれば、間違いなく「一食の価値あり」でしょう。



(すべて完食。)



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